AIが得意なエッセイ題材の素材帳
——何を書かせると面白くなるのか
編集部メモ
本サイトで 130 本以上のエッセイを AI(ChatGPT)に書かせてきて、見えてきたことがある。**AI は「大量のテキストから構造を抽出する」題材で強く、「特定の身体の経験を語る」題材で弱い**。マンションポエム・DXポエム・匂わせ暗号が軽やかに書けたのは前者であり、smoker-poem 一次稿が LLM くさくなったのは後者の落とし穴に落ちたからだった(参照:辛口レビュー)。
この素材帳は、今後の執筆候補を提示するためのもの。各カテゴリに具体的な題材を並べてある。mikawa で /plan 次のエッセイ と打ったときに選択肢として現れる想定。
なぜ AI はこれらが得意なのか
AI(大規模言語モデル)の本質は「人類が書いたテキスト全体の圧縮表現」である。したがって、AI が強いのは次の五つに集約できる。
- パターンの抽出——大量の個別事例から共通の骨格を取り出す(マンション広告 1 万本から「4 原理」を抽出する類)
- 領域の横断——不動産と SaaS とサプリの広告を同じフレームで並べられる
- 辞書・分類・カタログ化——類型化と命名は AI の得意芸
- 歴史の重ね書き——「この言葉は 1985 年にはこう、1995 年にはこう、2015 年にはこう」を並べられる
- メタ的な自己分析——テキストについてのテキストを書くのが、自然と得意
逆に AI が弱いのは、特定の身体が特定の瞬間に感じたことを書く題材。缶コーヒーを両手で包んだママ友、音読カードを前にして指先が動いた夜——これらは「既成の叙情装置」の組み合わせになりがちで、読者に LLM くささを見抜かれる。
題材カタログ(6 カテゴリ・60 題)
A. パターン・カタログ系
大量の事例から構造を抽出する。AI の最も得意な筋肉。
- 「言わないで言う」大辞典——辞退・皮肉・婉曲・嫌味の集成
- お断りの 100 パターン——結婚・仕事・誘い・投資勧誘
- 「ご検討いただければ」の誤読可能性カタログ
- 「大丈夫です」の 12 の意味——肯定・否定・諦め・警戒
- 「お疲れ様です」はいつから挨拶になったか
- 「よろしくお願いします」が指示する作業範囲の業界別相場
- 会社メールの冒頭定型 30 種——業界別・職位別
- クレームメールの三幕構成
- 断り文句の「残念ながら」の分布
- 「〜していただけますと幸いです」のゆるやかな強制力
B. 比較・並置系
同じ対象を複数の文脈で並べる。差分そのものがエッセイになる。
- 葬儀の司会進行——日本・韓国・アメリカ・ドイツ・タイ
- 就職ESの自己PR——日・米・独・韓の比較
- 「社長挨拶」の国際比較——何を誇り、何を謝るか
- 保険広告の恐怖設計——日本と欧米の差
- Z 世代・就職氷河期・団塊の「お疲れ様」用法
- 離婚届の設計——世界の役所の様式比較
- 病院の問診票の質問順序——日本・台湾・ドイツ
- 大学のシラバス——東大・ハーバード・北京大の冒頭比較
- 謝罪会見の頭下げの角度と時間——事例集
- 求人広告の「アットホームな職場」相当の訳語
C. 歴史・考古学系
いつ生まれ、いつ消えたか。起源を問い、変遷を追う。
- 「腰掛けOL」「お茶汲み」「肩叩き」——消えた職場用語の考古学
- 「エモい」はいつからエモいか——語義の年代記
- 「~ヶ丘」「~台」「~の里」——新興住宅地の命名史
- 昭和の百貨店の館内放送——消えた敬語
- 取扱説明書の注意書きが増えた事故の年表
- 「環境に優しい」が言えなくなった理由の経時
- 自動車CMから消えたナレーション語彙
- 銀行の名称変遷——「~銀行」から「~ファイナンシャル」へ
- 年賀状の定型「謹賀新年」「迎春」の分布変化
- テレビ CM の「効果には個人差があります」の出現時期
D. 制度・規制と文体の関係
「言えないから詠う」——規制の檻がポエムを生む構造。本サイトの核。
- 薬機法以降の化粧品広告文体の屈折
- 景品表示法改正で消えた「No.1」「最高」「絶対」
- 個人情報保護法以降の「~させていただきます」の増殖
- 独禁法と広告比較——「A 社は」「他社製品」の婉曲
- 著作権法改定と引用の作法の変化
- 電波法と放送禁止語の辞典
- 道路交通法改正と道路標識の文言
- 食品表示法の「使用しておりません」構文
- PL 法以後の子供向け玩具の注意書きの進化
- 建築基準法と「夢のマイホーム」広告
E. 業界ジャーゴン・専門用語の解剖
その業界でしか通じない言葉を、外側から翻訳する。
- 教育用語「主体的・対話的で深い学び」の意味論
- 官僚用語「前広に」「鋭意検討」「喫緊の課題」の時差
- IT 用語「アジャイル」「ピボット」「MVP」の日本的変形
- 医療用語を患者向けに翻訳した失敗集
- 学会スラング——「最低限」「興味深い」「改善の余地」
- 営業用語「刺さる」「巻き込む」「握る」の身体メタファー
- 保険用語「万が一」「いざという時」の時間感覚
- 不動産用語「閑静な住宅街」「新築同様」の暗号辞典
- コンサル用語の辞書編纂
- 芸能界用語「オフ」「現場」「ガチ」の意味の拡張
F. メタ・自己言及系
AI によるテキストについて、AI が書く。サイトの看板題材。
- AI が書いた文章の 15 の臭い(本サイト辛口レビューから抽出)
- AI 翻訳の誤訳が生んだ日本語の新語
- ChatGPT のデフォルト丁寧口調の分析
- 生成画像のキャプションに残る「AI っぽさ」
- AI 同士を会話させたときに起きる儀礼
- プロンプトエンジニアリングという新ジャンルの文体
- AI 生成コードのコメントの特徴
- 機械翻訳が「文化を翻訳できなかった」事例集
- 「ChatGPT らしい」と感じる修辞の特徴量
- AI の謝り方——「申し訳ございません、間違っておりました」の形式
G. 番外——「書かれないもの」の研究
上記 6 カテゴリとは別に、「書かれていないこと」について書く題材も AI に向く。大量のテキストを横断して「何が抜けているか」を特定するのは、個別の体験を語るのとは別の作業だからだ。
- 議事録に残らない会議の実質——「次回までに」の曖昧さ
- 履歴書に書かない職歴の輪郭
- 葬儀の弔辞で触れない部分——スキャンダル、確執、失敗
- 同窓会の近況報告で書かれない事実
- 結婚式スピーチから除外される過去の恋愛
- 会社の IR 資料に出てこない部門
- 大学案内から消えた研究室
- 観光パンフから抜け落ちる街の地区
- 小学校の学級通信に登場しない子どもの名前
- 料理番組で省略される「失敗したら」
AI が苦手とする題材(書かせない方がよいもの)
対称として、AI が書くと必ず凡庸になる題材も整理しておく。もしどうしても書くなら、辛口レビューで整理した 15 パターンを禁則にした上で取り組むこと。
- 個人的トラウマのメモワール——具体が合成写真になる
- 特定の感覚記憶(あの日の匂い、あの人の声色)——既成の叙情装置の組み合わせに落ちる
- 現役で毎日触っている仕事の裏話——AI は外側からしか書けない
- 政治的・宗教的な価値判断——当たり障りのない中道に収束する
- 短歌・俳句の新作——定型句の寄せ集めになる
- 地方性の濃いユーモア——タイミング・方言・身振りが落ちる
- 告白エッセイの結び——「〜だったのかもしれない」の自己赦し構文に戻る
——というより、これらは「書かせない」のではなく「書かせるなら人間が重い編集をする前提で」と言うべきかもしれない。2 パス執筆(下書き→辛口レビュー→書き直し)が効くのはここだ。
運用:この素材帳の使い方
ユーザー(横山研の誰か)が mikawa で /plan 次のエッセイ と打つと、この素材帳からランダムに 3 題が選ばれる想定。A〜F のカテゴリ重みは均等。
選んだら、該当するスタッフに執筆依頼:
- A(パターン・カタログ)→ ソノダマリ(調査員の本業)
- B(比較・並置)→ ソノダ × 各国の知人(マーク・リンメイファ・ワンさん等)
- C(歴史・考古学)→ ワタナベさん(65 歳の視点)or フジワラレン(研究助手)
- D(制度・規制)→ フジワラレン(研究助手)or キリシマミサキ(秘書)
- E(業界ジャーゴン)→ 該当業界のスタッフ(学術=ハヤシ、教育=モチヅキ、医療=イシカワ、IT=シライ)
- F(メタ・自己言及)→ シライショウタ(Bot開発)or 編集部
- G(書かれないもの)→ タケウチソウタ(16 歳の目)or アンドウユイ(教務)
下書き後は必ず 2 パス執筆(辛口レビュー例)を通すこと。第一稿・レビュー・第二稿の 3 稿を並置するのが本サイトの運用方針。
このページは AI(ChatGPT)の執筆特性を分析した編集部メモです。内容は本サイト 130 本以上のエッセイ制作を通じて得た観察に基づきます。