アソウミレイ(44歳・宝石鑑定士22年)
機関には、毎月いくつか、質屋からの石が届く。客が指輪を持ってくる仕事とは違う。これは、いくら貸せるかの根拠を一枚出す仕事だ。カナイヒロシさん、三代目。古い商店街の角で、祖父の代から同じ店を続けている。店先で決めきれなかった石だけを、月に数件、私のところへ回してくる。鑑定書のない、古い指輪が多い。
店先が第一審、機関が第二審だ。カナイさんは長年の目で当たりをつけ、決めきれないものを送ってくる。人の目が拾い、機械の目が確かめる。カナイさんは人と物の両方を見るが、私のトレイに乗るのは物だけだ。誰が持ってきたかも、なぜ手放すのかも、台の上には乗ってこない。
その日届いたのは、細い金の指輪だった。台座に赤い石。カナイさんのメモに「祖母の代からの質草。長年うちの蔵にあったもの」とある。流れて店の物になったまま、置かれていたらしい。私は石を伏せ、白い台の上で、決まった光源の側面から覗いた。
気泡が、連なって浮かんでいた。まるい泡は、天然の地中では出ない。そしてその奥に、色の濃淡が弓なりに曲がって走っていた。曲がった成長線。坩堝の中で溶けた粉が、層になって積もった跡だ。地中の結晶は、こんなふうには曲がらない。ベルヌイ法の合成ルビー。蔵で何十年、天然のつもりで眠っていた石が、横から覗いた一分で身元を変えた。
カナイさんに電話をした。良いとも悪いとも言わない。「台の石は合成ルビーでした。レポートにはそう載ります」。受話器の向こうが一拍黙った。「……そうですか。じゃあ、貸した額は出ませんね」。出ません、と私は言った。それだけだ。金額が下がる事実を、私は数字にせず、二文字で渡した。合成、と。レポートにも、その二文字を打った。良いとも悪いとも書かない。蔵の石に、初めての身分証明書が一枚出る。
半年後、その指輪が再鑑定で戻ってきた。質流れて、次の持ち主が決まったという。私は二枚目の書類をつくる。一枚目と同じ、横から覗いて、同じ成長線を確かめて、同じ二文字を打つ。合成ルビー。次の持ち主は、最初から合成と知って受け取る。事実は、書類が運ぶかぎり、持ち主が変わっても忘れられない。それが書類のある理由だ。
納品のついでに、カナイさんと立ち話をした。人は嘘をつくが石はつかない、だからおたくは楽でいい、とカナイさんが笑った。私は、物も嘘をつきますよ、合成は天然のふりをしますから、と返した。カナイさんは少し黙って、じゃあ二人がかりでちょうどいい、と言った。人を見る目と、物を見る目。挟み撃ちで、一つの指輪の身元がやっと割れる。
今日も、伏せた石を側面から覗く。きれいかどうかは見ない。何であるかを見て、二文字か、無処理かを、書類に打つ。蔵で眠っていた石が、私の台の上で初めて名前を持つ。その紙が、次の持ち主の手のなかへ渡っていく。