ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
バルセロナの高級ピソ広告を追うと、最初に売られているのは室内ではない。売られているのは建物の入口だ。エイシャンプラの区画に多い十九世紀末の共同住宅では、通りから一歩入った玄関ホールに白灰色の大理石が敷かれ、中央だけが長年の通行で浅くへこんでいる。壁の腰まで濃い緑に塗られ、真鍮の郵便受けは指先の当たる角だけ色が抜ける。広告はそこを細かく書く。キッチンの作業台寸法や収納量より、先にその摩耗を読ませる。
頻出語はFinca Regiaだが、これは単なる「格式ある築古」ではない。天井高、採光、という便利語の束でもない。門扉の鉄柵が腹だけ少し前に張り出していること、共用階段の手すりが冷たい石ではなく木で、握る部分だけ飴色に変わっていること、踊り場の磨りガラスに花ではなく幾何学の文様が残っていることまで、一語で値札に変える符牒である。広告文は室内設備の説明に入る前に、その建物がどれだけ「撮るに足る顔」を持つかを判定している。
“Principal en finca regia rehabilitada, con pavimento hidráulico recuperado, carpinterías originales restauradas y alta proyección patrimonial en Dreta de l’Eixample.”
ここで効いているのは名詞より過去分詞だ。rehabilitada、recuperado、restauradas。直した、戻した、救い出した。その連打で、住戸は生活の器ではなく修復済み資産として提示される。たとえば床の水圧タイルも、広告では「緑とクリームの八芒星が残るオリジナル舗床」と書かれるが、実際の写真では一部に補修の継ぎ目があり、窓の外には中庭側の物干し金物が見える。そこは詩にならないので省かれる。かわりに「patrimonial」が差し込まれ、保存状態そのものが将来価値の証拠として扱われる。
このねじれは、観光都市バルセロナ固有のものだ。ガウディの名を出さなくても、観光客がすでに学習した輪郭が価格を押し上げる。外壁の波打つ漆喰、扉上の小さなステンドグラス、内廊下のカタルーニャ式ヴォールト。そうした断片は、住民のための細部である前に、都市イメージの既知の部品として機能する。短期貸しの露骨な利回り語が使いにくくなった後、その役を引き受けたのが修復語彙だった。広告は「観光客向け」とは書かない。そのかわり、旅行者の目で価値が判定済みの意匠を、長期保有に向いた静かな資産として差し出す。
だから高級ピソ広告が売っているのは住戸ではない。観光で消費された街の断片を、所有権つきで再配分する商品である。玄関ホールの摩耗、回収された床材、修復済みの建具、その一つ一つに価格の根拠が貼られる。美観の説明に見えて、やっていることは査定だ。バルセロナでは、住まいの紹介文が不動産の外側で街を語るのではない。街の見え方そのものを、最初から不動産として組み直している。