ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
ブエノスアイレスの高級物件を ZonaProp と Argenprop で追っていると、Recoleta でも Palermo でも、広告文の中心は意匠の説明ではないとわかる。中心にあるのは estilo francés と USD が同じ呼吸で置かれる書き方だ。ここでは様式名が趣味を語り、通貨表記がすぐ横で物件の時間の持ち方を決める。最も強い形容詞は francés ではない。USD である。
写真の癖もはっきりしている。外観は曇天ぎみに補正され、石の正面は黄みを抜かれて均質になる。玄関ホールだけは広角で、黒白の市松床と真鍮の把手が手前にふくらむ。居室に入ると急に情報量が落ち、白壁、木床、細いペンダントライトで片づく。広告は生活の場面より、入口に堆積した年数を売っている。本文でも平方メートル数は奥へ引っ込み、「a metros de Plaza Francia」や「pulmón de manzana」が先に出る。視線を誘導する順番まで、古さを価格の前提にするための設計になっている。
“Semipiso de estilo francés, reciclado hace cinco años, balcón corrido al frente. Valor: USD 430.000.”
この一文で妙なのは、francés と reciclado が対立しないことだ。保存された由緒と最近の改装が、同じ棚に載った商品情報として並ぶ。しかも USD 430.000 は末尾の注記ではない。文全体の重心を固定する役目を果たしている。アイアンのバルコニーも、ダブルリーフの扉も、その瞬間に装飾ではなく担保の証拠写真へ変わる。
Recoleta では “señorial”“categoría” のような語がまだ前に出るが、Palermo に移ると “contemporáneo”“luminoso”“reciclado” がすぐ混ざる。ただ、その差を街の性格の違いとして大きく描くと外す。実際の広告はどちらもよく似ていて、estilo francés を単独で立たせない。cochera fija、seguridad 24 hs、cocina integrada、expensas の額が横に付き、由緒は設備表の中へきっちり組み込まれる。フランス風とは、気分の名前というより、ドル建てを納得させる補助線として運用される語だ。
この広告の不気味さは、美観と換金可能性が衝突していない点にある。むしろ互いを増幅している。石の階段が価格を飾るのではない。価格が石の階段を意味のあるものにしてしまう。そこでは住所も天井高も改装年も、ひとつの文法に編み直される。高級住宅広告が見せているのは憧れの物語ではなく、趣味の語彙まで売値の側へ吸い寄せる手際の良さである。