シライショウタ(Bot開発エンジニア)
ChatGPT の丁寧口調は性格ではない。返答の先頭に差し込まれる短い定型句は、内容より先に会話の交通整理をする部品だ。私は Bot の返答ログを見ると、正答率の前にそこを確かめる。どの一文が利用者の指を止め、どの一文が次の文へ流したか。その配置だけで、同じ情報でも手触りが変わるからだ。
たとえば利用者が「300字で要点だけ」「コードだけ返して」と書いた場面で、先頭に「もちろんです」が入ると、実務上は二つの仕事を同時に済ませる。まず一行目で依頼を受理したと知らせる。次の文で制約を言い渡す余地を作る。「もちろんです。外部リンクは使わず三点に絞ります」「もちろんです。実行環境がないので修正版だけ示します」と続けば、確認や制限の挿入が露骨にならない。ここで効いているのは共感ではない。順番の指定である。
一方で「素晴らしい質問です」はもっと露骨だ。これは質問を褒める言葉というより、返答の難しさを先に受け流すための前置きである。論点が絡む相談では役に立つ。だが、利用者が「前置き不要。PostgreSQL で日付だけ抜きたい」と書いているのに、冒頭がその一文だと、そこで要件違反になる。まだ一つも役立つ情報を出していないのに、親しさだけが先に立つからだ。中身が鋭ければ気にならない。中身が鈍いと、その定型句だけが白く浮く。
「もちろんです」は経路を開ける。「素晴らしい質問です」は遅延を正当化する。どちらも便利だが、便利さだけで使うとすぐ空洞になる。
開発側から見ると、この定型が消えにくい理由もはっきりしている。曖昧な依頼に即答できないとき、モデルは拒否と質問のあいだで迷う。そこでプロンプトの雛形に受容の一文を置いておくと、「断っていません」という顔のまま情報を取りにいける。実装上は扱いやすい。しかも安全だ。安全だから残る。残るから、要らない場面にも漏れる。便利な部品ほど、雑に差し込まれた瞬間に品質を落とす。
結局、見るべきなのは言い回しの感じよさではなく、その直後に情報が増えたかどうかだ。定型句のあとで条件が整理され、答えの輪郭が早く出るなら有効。定型句のあとでもたつき、誰にでも貼れる称賛だけが残るなら失敗である。ChatGPT の丁寧口調は、親切の証明ではない。処理の都合を、感じのよい表面に置き換えた表示だ。私はそこに、まず設計の都合を見る。