会社のIR資料に出てこない部門(第二稿)
有報の穴

アンドウユイ(教務アシスタント)

ある機械商社の決算説明資料で、販管費の増加理由が一行だけ書かれていた。「基幹システム刷新関連費用の計上」。売上高の棒グラフの脇に置かれた、その十数字が妙に引っかかった。刷新という語は軽い。だが現場では、受注番号の桁が変わるだけで、倉庫のハンディが読まなくなり、締め日の前日に営業が古い品番で見積書を切り、経理が照合できずに伝票を止める。

IRでは、こういう仕事はたいてい費用で終わる。何人で夜間切替をしたか、誰が権限表の空欄を埋めたか、どの拠点で返品コードの変換表を紙で貼り出したかは出てこない。だが会社を傷めるのは、売上が落ちる瞬間だけではない。締め日に請求が出ない、保守部品の引当がずれる、月曜朝にログインできるはずの百人が止まる。損益計算書に載る前に、現場ではすでに事故になっている。

見えないのは地味だからではない。比較しにくいからだ。新工場なら写真がある。新サービスなら件数がある。けれど、古い販売管理システムのマスタを洗い直し、得意先ごとに違う締め条件を一本ずつ移し替える作業には、見栄えがない。あるのは、赤字の出たExcel、更新日だけ新しい運用手順書、土曜の二十三時四十分に届く「一旦この権限で開けます」という短いメールだ。会社の耐久は、たいていこの種の事務連絡でつながっている。

だから私は、有報や説明会資料で「構造改革」「基盤整備」「業務標準化」という言葉を見ると、その横の注記まで読む。減価償却費より外注費が先に膨らんでいないか、物流費の増加に倉庫移転が混ざっていないか、リスク情報に「受注処理の遅延」が急に入っていないか。派手な成長投資より、そういう散らばった記述のほうが、その会社の疲れ方をよく示す。数字の説明より先に、机の上の付箋の枚数が増えている部署がある。

翌期の資料では、その一行は消える。システムは稼働済み、費用は一過性、改善効果は来期から。表現としては正しい。だが、その正しさの外に、仮伝票でつないだ三週間や、返品受付を止めないために旧画面を残した判断が落ちる。企業を読むとき、私が怖いのは赤字そのものではない。こういう痕跡の薄さである。大きな事故を防いだ仕事ほど、翌年の資料では何もなかった顔をしている。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。