ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
イスタンブールの高級住宅広告が売っているのは、窓から見える水面ではない。売っているのは、海峡のどちら側に住み、どの回路に接続されるかだ。パンフレットを開くと、最初に出るのが室内写真ではなく、橋を赤い線でなぞった地図という案件が多い。ベシクタシュ、レヴェント、ニシャンタシュまで車で何分、空港へ何分、私立校へ何分。視線は景色より先に移動時間へ誘導される。眺望は背景、座標が商品である。
しかも「ヨーロッパ側」がいつも同じ顔で出てくるわけではない。ある広告では「merkez」が大きく、下に「metroya 3 dk」「Boğaz manzarası」が小さく続く。中心に住むことが主で、海は添え物だ。ところが別の案件では、同じヨーロッパ側でも託児室、屋内プール、校区の説明が前に出る。逆にアジア側のチャムルジャ周辺では、「elite yaşam」「city view」を金文字で押し出し、静けさより威信を売るものがある。側だけでは決まらない。どの層へ差し出すかで、海峡の使い方が変わる。
意匠も、歴史を大づかみに飾るのではなく、販売図面の都合に合わせて細く切られている。エントランス完成予想図の門扉には、黒ではなく少し赤みのあるブロンズ色の格子が入り、その線がアラビア書法の払いに寄せてある。読める文字ではない。ロビー床は白い大判石材、その中央だけに八角形のメダリオン。水盤は四角く浅く、ホテルの香りのディフューザーが横に立つ。宗教施設の引用ではない。高級の手触りへ変換された装飾である。
「Title deed ready」「Suitable for citizenship」「Starting from USD 850,000」
この一行が載ると、住宅広告の文体は急に変わる。トルコ語版では頭金比率、18か月分割、引き渡し予定月が並ぶのに、英語版ではパスポート取得条件と賃貸収入の予測が前へ出る。間取り図の横に、1+1、2+1の面積表と一緒にドル建て価格が置かれ、脚注で「家具パッケージ込み」と付く。暮らしの説明と資産の説明が一枚の紙でねじれる瞬間だ。私がいちばん目を奪われるのは、海の写真ではない。青い帯の見出しの下に、地名、橋、USD、citizenship が同じ段で整列している、その並べ方である。