ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
職業柄、物件名鑑を毎週めくる。先月見た新築の名は「ルクシア浄心レジェール」。日本語部分はゼロだが、意味は「駅から坂を上がる」だと読める。日本語で直接言われないことが、外来語の皮でだけ言われている。この構造は部屋の外にも広がっている。棚に分けて並べてみる。
辞退——「大丈夫です」でレジ袋を断るとき、話し手は拒否の動詞を一度も使っていない。満ちているから要らない、という迂回。断られたコンビニ店員も「失礼しました」ではなく「かしこまりました」で受ける。断った側も受けた側も、否定の語彙を通らずに否定の取引を終える。
嫌味——敬語の密度で殴る技法がある。義母が嫁に言う「お仕事、頑張ってらっしゃるのね」。尊敬語を一段盛り、「ね」で確認に回し、主語を「あなた」ではなく「お仕事」に振る。三つの操作が揃った瞬間に、文面の励ましが家庭軽視の採点に化ける。褒める語を一語も外さずに評定を下ろす、精度の高い装置だ。
中動態——「~になります」で料理が出てくるとき、作った人の手は文から消える。「誤解を招く表現がありました」では、招いたのも誤解したのも誰だかわからない。責任が文法の外に押し出される。能動と受動の間に第三の戸があり、日本語の接客と謝罪はそこをよく通る。
広告転用——仕事で集めたコピーから。「駅徒歩14分」の物件が「丘上の静けさを所有する」と書かれていた。「14分」は本文に残してあるのに、身体の疲労は「静けさ」に書き換えられている。否定ではなく置換。言わないで言うのではなく、言いながらずらす。日常会話の婉曲と広告文の転写は、同じ筋肉で動いている。
対照——英語のwith all due respectは、反対の前に敬意を置いて旗を立てる。「お言葉を返すようですが」は、旗を立てた直後に自分で旗を下げる動きが入る。反対の強度を、反対する前に自分で削っておく。韓国語の婉曲は、否定の位置がもう少し手前にある。日本語の特徴は、否定語そのものを回避することに傾いている。
棚を並べていくと、一つだけ揃わない。皮肉は文字起こしに移すと消える。音の長さと間に乗っているからだ。カタログに載せるには一番やっかいな棚で、今日はここに空き札だけ置いておく。