ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
届いた結婚式の招待状。印刷された美しい書体と、裏面の白い余白との対比。厚手の紙は指先に冷たい。手にしたのは、使い慣れた黒のボールペン。インクの出具合を確かめるように、一度、メモ用紙に線を引いた。
「御出席」「御欠席」の文字。迷いなく「御」を二重線で消し、「欠席」に丸をつける。この一連の動作に、妙な重みが伴う。その下の小さな罫線に、何と書くべきか。定型句である「所用により」が、頭の中で何度も反復される。それが嘘ではないことを、自分自身に言い聞かせた。
金曜の夜。本来なら友の門出を祝う華やかな席にいるはずだった。代わりに私は、スーパーで半額になった惣菜をカゴに入れ、一人帰路についていた。明日への気力すらおぼつかない、そんな週の終わり。式場までの交通費、新調する服の代金。小さな現実は、私にとって大きな壁となる。
たった数文字の「誠に恐縮ながら」に、どれほどの逡巡が込められているか。友人への祝福は偽りない。だが、その真ん中に、言い訳を書き込む自分の不甲斐なさ。この小さな余白は、体裁を繕う私の舞台だ。ここで、私は現実を抽象化する。
欠席の余白には、社交辞令では処理しきれない本音が沈殿している。行間を読むのではなく、書かれなかった言葉の重さを想像する。その不透明さが、かえって人間関係の奥行きを深くする。
投函する直前、宛名と返信先の住所をもう一度見つめる。郵便ポストの口に吸い込まれていく白いハガキ。指先に残る紙の感触だけが、その日、私がした決断の痕跡だった。私は、あの小さな余白が、人の心の機微を雄弁に物語ることを知っている。