ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
BGCの高級コンド広告は、夢を売る紙ではない。送金の着地と家事労働の配置を、金の箔押しで包んだ業務文書である。
去年拾った一冊の販売冊子は、表紙が濃い紺で、塔の輪郭だけが銅色に浮いていた。上端には細いセリフ体でLEGACY ADDRESS、右下には無骨なサンセリフで “Flexible Terms Available” 。見開きに入ると、ロビーの完成予想図は蜂蜜色の壁、capiz風の丸い照明、黒い格子戸でまとめられている。だが窓の外には教会の尖塔も古木もなく、同じ高さのガラス塔が整列している。ここで借りられているのは歴史ではなく、由緒の手触りだけだ。
“Reserve from anywhere.” “Pay in easy monthly installments.” “Five minutes to St. Luke’s, ten to the International School.”
この手の文句は、住戸の内部より先に時差表を呼び込む。広告の受取人は室内にいない。ドバイの夜八時に合わせたオンライン説明会、トロント向けの再放送、WhatsAppで送られる支払表。そこでは天井高より、引渡し前の月額負担と賃貸想定額のほうが大きく印字される。家族写真が載っていても、紙面の主役は帰国前の送金者で、家具ではなく送金回路が先に配置される。
さらに正直なのは間取り図だ。2BRの図面で主寝室は11.8sqm、第二寝室は9.2sqm、そこまでは普通だが、キッチン脇に 1.8m × 2.1m の小部屋があり、注記は “maid’s room” 。窓の記号はなく、隣に “utility” と “service entrance” が続く。販売員はこの箇所を早口で流す。だが一坪にも満たないこの四角がBGCの本音である。ラウンジのCGでは白いソファに素足を投げ出す所有者を描き、図面では別の身体を排気ダクトのそばへ押し込む。その分業が最初から書き込まれている。
だからBGCの広告で読むべきなのは、美しい英語そのものではない。金利表の脇に置かれた国際校の地図、夕景パースの過剰な橙色、そして平面図の端に小さく残された service の文字だ。そこに出ているのは上昇の気分ではなく、誰が遠くで稼ぎ、誰が室内を回し、誰が正面玄関を使うかという序列である。高級コンド広告は、その序列を隠すための化粧紙ではない。序列をきれいな英語で事前登録させる書類である。