リンメイファ(台湾出身)
台湾の朝は、小ぶりな早餐店の騒がしさから始まる。油の弾ける音、中華包丁がまな板を叩くリズム、そして何よりも、客の手を滑る注文紙の感触だ。店先で手渡されるのは、一枚の薄い紙。A6サイズほどで、再生紙特有のざらつきがある。多くは黒一色で、細い罫線が項目を区切る。隅には店名と電話番号が簡素に印字されている。時にはインクが薄れ、読みにくい文字も混じる。
紙面には、お馴染みの朝食メニューが縦に並ぶ。「蛋餅」「飯糰」「蘿蔔糕」。それぞれチェックボックスが添えられている。その箱は指先で軽く押せるほど狭い。客は慣れた手つきで鉛筆を滑らせ、欲しい品に素早く印をつけていく。油っぽい蛋餅を想像しながら、次に鹹豆漿のわずかな酸味を思い浮かべ、ためらいなくチェックを入れる。この一連の動作には、もはや思考の余地がない。
特筆すべきは、客が自由に書き込む余白だ。「不要香菜」「少冰」「半糖」といったオプションは、既存の枠外に手書きで追記されることが多い。店によって表記はまちまちで、略字も散見される。客はそれを一瞬で読み解き、必要であればボールペンを借りてさっと書き加える。時にはインクが出ないペンに苛立ち、別のペンを探すこともある。この、アナログゆえの不便さもまた、日常の一部だ。
注文を終えた紙は、カウンターの店員へ手渡される。忙しい店員は、一瞥しただけで内容を把握し、慣れた動作で次々に厨房へ指示を飛ばす。デジタルな注文システムが主流の現代において、紙と鉛筆による情報伝達は、時に非効率に見えるかもしれない。しかし、その直接的なやり取りの中に、見知らぬ客と店員がわずかに顔を合わせる機会が生まれる。それがこの街の朝の風景だ。この注文紙は、台湾の早餐店で毎日繰り返される、無数の小さな交流を支えている。
私が先日訪れた店では、小学生が描いたようなイラストが隅に描かれていた。何の変哲もない注文紙が、その一枚によって突然、血の通った存在になった気がした。完璧に統一されたシステムにはない、この適当さと温かさが、台湾の朝食の魅力なのかもしれない。この紙片一枚が持つ多様性は、訪れるたびに異なる表情を見せる。