乗り継ぎの、鞄(第二稿)
三文字の地理と、時間との勝負

トベシュウヘイ(41歳・空港の手荷物ハンドリング19年)

到着便が着く。腹から鞄を降ろす。半分はここで旅を終え、半分はまた飛ぶ。降ろしたそばから、俺たちは二つに分ける。持ち手の根元に緑の帯が巻かれているのが、乗り継ぎだ。緑を拾い、便ごとのカートに振る。緑のない鞄は、ベルトに乗せて旅客のもとへ返す。

乗り継ぎは時間との勝負だ。旅客には乗り継げる最短の時間が決まっている。ミニマム・コネクション・タイム。人間がターミナルを走って間に合う時間だ。その同じ時間のなかで、鞄も乗り継がなければならない。人が四十五分で走るなら、鞄も四十五分で、降ろされ、拾われ、また積まれる。鞄に四十五分はない。俺たちの手の速さが、鞄の四十五分だ。

カートは一台に三十六個。満載のカート三台を繋いで、トラクターで駐機場まで七分。遅延便から降りた緑の帯は、次の便がもう搭乗を始めている。七分を六分にする。アクセルの踏み方が、運転手によって違うのを俺は知っている。

それでも間に合わない鞄がある。積み残し。持ち主は次の便に乗り、鞄だけが残る。残った鞄のタグを、俺は付け替える。古い行き先の上に、追いかけて送る便名と、持ち主の名を書き直す。書きながら、この人はもう着いていると分かる。ベルトの前に立って、出てこない自分の鞄を待っている。鞄より、人のほうが先に着く。付け替えたタグの便名を、俺は声に出して読み合わせる。

積み残しが出ると、報告書を書く。便名、タグ番号、降ろした時刻。「理由」の欄はプルダウンで、選べるのは六つだけだ。〈接続時間不足〉を選ぶ。遅延が二十分で、解け待ちがあって、カートが先に出てしまって——その経緯を書く欄はない。六つのどれかを選んで、確定を押す。書けなかったぶんは、確定のあとも俺の側に残る。

長く旅をした鞄は、古いタグが層になっている。持ち手の根元に、剥がし忘れたバーコードの帯が幾重も巻かれ、三文字の空港コードが透けて重なる。先日のは、数えたら九枚だった。NRT、SIN、DXB、CDG——その下はもう読めない。九枚の上に、俺は十枚目を巻く。

空港コードは三文字だ。NRT、HND、LAX、CDG、SIN。手が覚えている。三文字を見て地球のどのあたりかが浮かぶのは、行ったことのある街だからではない。タグでしか知らない街を、俺は三文字の手触りで覚えている。地理を、行かずに覚える仕事だ。

台風の日は、すべて止まる。欠航の緑が、仕分け場に積み上がる。腰より高い鞄の山。その手前の一個に、持ち手へ結んだメッセージカードがぶら下がっていた。子どもの字で、ハングルが書いてある。読めない。だがそれが、誰かの土産だということは分かる。山は壮観だ。俺はその一個のカードを、濡れないように山の内側へ向け直して、次の鞄を積む。

晴れれば、緑の帯はまた流れ出す。俺は緑を拾い、便ごとに振り、満載のカートを駐機場へ出す。三文字を読み、付け替えのタグに便名を書く。降ろし、拾い、また積む。ベルトの向こうのさらに向こうで、俺は鞄の四十五分を、手で数えている。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。