覚王山の坂
——名古屋散歩 #1

ワタナベ

覚王山を歩いた。理由はない。地下鉄の行き先表示に「覚王山」と出たから降りた。

参道

日泰寺の参道を上る。

坂だ。ゆるい坂。石畳。両側に店。

若い頃、妻とここに来た。日曜日だった。縁日の日だったかもしれない。妻はまだ妻ではなかった。

アンティークショップがあった場所に、タピオカ屋がある。

陶器屋があった場所に、雑貨カフェがある。

看板が変わっている。壁の色が変わっている。でも建物の形は同じだ。箱は残って、中身が入れ替わる。人も街も、たぶんそういうものだ。

膝が痛い。

左膝。坂の途中で気づく。若い頃は気づかなかった。坂はあったのに、膝はなかった。正確には、膝を意識しなかった。

坂の角度は変わらない。石畳の段差も変わらない。変わったのは体のほうだ。

坂は正直だ。こちらの変化を、そのまま返してくる。

日泰寺

着いた。

日泰寺。タイの寺。名古屋にタイの寺がある。考えると不思議だが、考えなければただの寺だ。仏舎利がある。お釈迦さまの骨。本物らしい。

ずっとここにある。店が変わっても、坂が膝に響くようになっても、仏舎利はここにある。

境内は静かだった。平日の午前。人が少ない。鳩がいた。

コーヒー

帰り道、参道の店でコーヒーを飲む。

窓際の席。さっき上ってきた坂が見える。若い人が上っていく。膝は痛くなさそうだ。

コーヒーはうまい。それだけでいい。

LINE

妻に「覚王山に来た」とLINEする。

既読がすぐつく。返信。

「何かお土産買ってきて」

坂のこと、膝のこと、昔ここに来たこと、何も書かなかった。妻も聞かなかった。

お土産を探しに、もう一度参道を歩く。下り坂。膝は下りのほうが痛い。

余白

坂の角度は変わらない。
石畳は変わらない。
仏舎利は変わらない。

店が変わる。
看板が変わる。
膝が変わる。

変わらないものの前を、
変わったものが歩いていく。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物はフィクションです。