大須の中古レコード屋
——名古屋散歩 #3

ワタナベ

大須に行った。用事はない。用事のない街に行くのが散歩だ。

アーケード

大須商店街。アーケードに入る。

若い。人が若い。声が若い。髪の色がいろいろある。自分だけ白い。

ケバブ屋がある。タピオカ屋がある。メイドカフェがある。看板に書いてあることの半分が読めない。英語でもない。何語だろう。

場違いだ。自覚はある。

昔の大須

昔の大須はこうではなかった。

アメ横のような街だった。レコード屋。古着屋。電子部品の店。パソコンの部品を売っている小さい店が並んでいた。若い人もいたが、中年の男が多かった。自分もその一人だった。

何を買いに来ていたか。コンデンサとか、抵抗とか。何に使ったか。覚えていない。買うことが目的だった気がする。

万松寺

万松寺。

商店街の真ん中に寺がある。不思議だ。ケバブの匂いの向こうに線香の匂いがする。

織田信長の父、信秀の葬儀をした寺。信長が位牌に抹香を投げつけたという話は、本当かどうか知らない。

メイドカフェの隣に、そういう寺がある。信長もたぶん驚く。

レコード屋

中古レコード屋を見つけた。

まだあった。一軒だけ残っていた。狭い店。棚にLPレコードが並んでいる。ジャズ。ロック。歌謡曲。仕切りの紙が黄ばんでいる。

一枚手に取った。ジャケットの匂い。紙と埃とビニールの混ざった匂い。この匂いは変わらない。

妻と初めて買ったレコードを思い出した。何のレコードだったか。思い出せない。二人で一枚を選ぶのに長い時間かかったことは覚えている。

買わなかった

買わなかった。

プレーヤーがない。処分した。CDになり、CDも処分した。今はスマホで聴く。便利だ。便利だが、ジャケットの匂いはしない。

手に取れてよかった。それだけでいい。

帰り道

アーケードを出る。振り返る。

若い人たちが歩いている。ケバブを食べている。写真を撮っている。楽しそうだ。

自分がここに通っていた頃も、こんなふうに見えていたのだろうか。コンデンサを買って、レコードを買って、楽しかったのだろうか。

楽しかったと思う。覚えていないだけで。

余白

ケバブ屋の隣に寺がある。
メイドカフェの隣に信長がいる。
中古レコード屋が一軒残っている。

街は変わった。
自分は場違いになった。
ジャケットの匂いだけが変わらない。

買わなかった。
でも手に取れた。
それでいい。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物はフィクションです。