妻が喋る朝
——名古屋散歩 #5

ワタナベ

妻が喋った。

朝のテーブル

トースト。コーヒー。

いつもの朝だ。向かいに妻が座っている。妻もトースト。妻もコーヒー。四十年、同じものを食べている。

妻が喋る

「今日もコメダ?」

妻が言った。トーストをかじりながら。こちらを見ないで。

「散歩」

自分はそう答えた。いつもの答えだ。

「散歩」

妻が繰り返した。笑っていた。

知っていた

知っている。

最初から知っていた。コメダに行っていることを。散歩と言い続けていることを。嘘だと知っていて、何も言わなかったことを。

何年だろう。三年。四年。もっとか。ずっと知っていて、ずっと黙っていた。

散歩

「散歩に行ってくる」

立ち上がる。靴を履く。

「牛乳」

妻が言う。背中に。

「買ってくる」

「忘れるでしょ」

忘れる。たぶん忘れる。コメダで新聞を読んでいるあいだに忘れる。

玄関

ドアを開ける。風がある。

散歩だ。コメダまで十分。コメダに四十分。帰りに牛乳。今日は忘れない。たぶん。

妻は台所にいる。食器を洗っている。自分が出たことに気づいているのかいないのか。四十年一緒にいると、いちいち確認しない。

余白

「今日もコメダ?」
「散歩」
「散歩」

知っていた。
最初から知っていた。
何も言わなかった。

四十年、同じものを食べている。
四十年、同じ嘘をついている。
四十年、同じ顔で笑っている。

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。登場人物はフィクションです。