スクリプトの外で、相槌を打った日
入社一年目、定型文の外に漏れる声を聴くまで

アリムラサキ(27歳・コールセンターオペレーター5年)

声だけで人と会う仕事をしている。顔も知らない、名前も注文番号でしか知らない相手と、一日に何十回も話す。最初に研修で渡されるのは、トークスクリプトと呼ばれる台本だ。「お電話ありがとうございます」「恐れ入りますが」「確認いたしますので少々お待ちください」。覚える台詞は決まっていて、迷う余地がないように作られている。

スクリプトはよくできている。お客様が何を言っても、必ず次に進める分岐が用意されている。注文、変更、キャンセル、クレーム。どの枝をたどっても、最後は「ほかにご不明な点はございませんか」に合流する。台本の外に出る道は、設計されていない。新人の私は、その枝を一本ずつ覚えるだけで精一杯だった。

2021年の、入社して半年ほど経った頃だったと思う。通販のコールセンターで、私は健康食品の追加注文を受けていた。電話の主は、声から察するに高齢の女性のお客様だった。注文はすぐ終わった。あとは合流地点の台詞を言えば、通話は閉じるはずだった。

ところがその方は、注文が終わってから、ぽつりと話し始めた。この健康食品は、亡くなった夫が毎朝飲んでいたものなのだと。受話器の向こうの孤独が、そのとき確かに透けて見えた気がした。夫が亡くなってから、自分も同じものを飲むようになった。そういう話を、独り言のように、けれど私に向かって、続けられた。

スクリプトに、「相槌」のページはない。お客様の身の上話に対応する分岐は、どこにも用意されていない。私は台本のどの枝にも合流できないまま、言葉を探していた。マニュアル通りなら、ここで「さようでございますか。ほかにご不明な点は」と合流させるべきだった。

けれど私の口から出たのは、「そうでしたか」だった。スクリプトに載っていない、ただの相槌だった。たぶん、声が少しだけやわらかかったと思う。お客様は少し黙って、それから「聞いてくれてありがとうね」と言って、電話を切られた。短い通話だった。

あの通話は、上長にモニタリングされていた。後日、評価のメモが回ってきた。「丁寧な対応だが、合流が遅い」。間違ってはいない。私は確かに、台本の合流地点に着くのが遅れた。スクリプトの外の「そうでしたか」は、評価表のどの欄にも、置き場所がなかったのだと思う。

それから五年、私はずっと声を聴いている。お客様の声ではなく、スクリプトと声のあいだに漏れるもののほうを。台本がすべての分岐を用意していると思っていたけれど、本当は、台本の外にこそ人の声がある。あの日の「そうでしたか」が、私をいまの私にしてくれたのだと思う。今日もヘッドセットをつけて、私は台本を読む。台本の外を聴くために。

——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。