部品の、絶版(第二稿)
もう作られない一片を、それでも探す

アシヤノゾミ(33歳・時計修理技能士11年)

巻真が折れていた。リューズを回して時刻を合わせる、あの軸だ。一九七二年製の三針。注文画面に型番を打つと、「供給終了」と返ってきた。製造を終えて十年で、メーカーは補修部品の在庫を打ち切る。絶版の通知は、いつもこの一行だ。

諦める前に、順番がある。まず汎用部品の型番表を引く。巻真は規格に整理されていて、長さと径と先端の角穴の形が合えば、別のメーカーの一本でも使える。表を指でたどり、近い番号を三つ拾った。取り寄せて、折れた元の巻真と並べる。二つは径が合わず、一つは先端の角が合わなかった。

次は部品取りだ。机の下に、ジャンク箱がいくつもある。動かない同型の時計を、私は捨てずに取っておく。文字盤が割れていても、中の巻真は無傷のことがある。同型を二本探したが、一本は巻真がやはり折れ、一本は錆びて軸が痩せていた。死んだ時計から、生きた一本を取り出せないこともある。

受話器を取った。長く問屋をやっている老人の番号だ。型番を、数字を一桁ずつ区切って読み上げる。「ナナ、ニイ、マル……」。少し間があって、「あるかもしれん」と言った。それから、受話器の向こうで電話が机に置かれ、抽斗が引かれた。木の抽斗が、レールの上をこする音。遠くで、別の抽斗も引かれる。私は受話器を耳に当てたまま、その音を一分ほど聞いていた。戻ってきた老人は、「なかった。すまんな」と言った。

最後は、削る。汎用の巻真の素材を旋盤にくわえ、合う寸法まで削り出す。図面はない。折れた元の一片を顕微鏡で〇・〇一ミリ刻みで測り、その数字を手で再現する。削るのは一方向だ。径を〇・〇五ミリ落としすぎれば、その一本は屑になり、ジャンク箱が一つ増える。また素材を取り直して、最初からやる。だから、刃を当てる送りは、いつも測った手前で一度止める。

先月、修理を断った一本がある。スマートウォッチだった。「画面がつかない」と差し出された。裏蓋を開けたが、私の引き出しには当てる部品が一つもなかった。基板のチップは、機械の巻真より早く廃番になる。部品取りも、削り出しもきかない。「これは直せません」と言って返した。電子の絶版には、順番を下りていく余地がない。

三日かけて、巻真は寸法に入った。先端の角を角穴に通し、香箱まで輪列を組み直す。一九七二年の機械が、ねじ一本まで今の汎用部品で噛み合う。五十年前の規格が、別のメーカーの素材を受け入れる。この互換が、一本を生かす。

納品の日、最後にリューズをつまんで巻いた。コチ、コチ、と、削り出した巻真が香箱に力を伝えていく。途中で力が抜ける箇所はない。最後まで均して巻き上がり、巻き終わりが、指先で、こつ、と止まる。この手応えを返すために、表を引き、抽斗の音を聞き、三日、旋盤を回した。持ち主は、何も気づかずにリューズを押し込んで、腕に巻いて帰った。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。