ハットリチアキ(41歳・空港のバードパトロール11年)
年に二度、空が混む。春と秋、渡りの季節だ。三月の終わりから五月、九月から十一月。事務所の壁には渡りのカレンダーが貼ってあって、その二つの帯が赤く塗ってある。鳥を追う仕事には、忙しい季節と暇な季節がある。
カレンダーは先輩が長年つけた記録だ。何月の何週にどの鳥が来るか、欄が細かく埋まっている。去年の四月十二日の欄に「ヒヨドリ大群、北へ」とあり、今年の四月十一日、私は同じ群れを同じ高さで見た。一日違い。鳥は地図を持たないが、カレンダーは当たる。私はその欄に丸を足した。
今朝、窓を開けて空を見る。雲が低い。向かい風。渡りの鳥は、晴れて追い風の日は高く一気に抜けるが、こういう朝は高度を下げて這うように渡る。私は表を見るまでもなく「今日は低い」と決める。低い朝が、私たちの出番だ。低いとは、飛行機が降りてくる高さに鳥が入るということだ。
最盛期は、管制のレーダーにも群れが映る。飛行機の輝点は速くまっすぐ動く。鳥の群れはそれより遅く、風に流されて斜めに、ゆっくり画面を横切る。先輩はその斜めの動きを「流れ星の逆だ」と言った。機械が斜めの点を見つけ、私が双眼鏡で確かめる。輝点が一つ、ランウェイ三四の北へ流れていく。三百フィートあるかどうか。
朝のうちに、地図と時刻表を並べる。離着陸のいちばん多いのは午前七時から九時。渡りの群れが上空を抜けるのも、夜明け直後のこの帯だ。線と数字が、七時台で交わる。交わると分かった朝は、車を二台出す。私の仕事は、この交点を七時より前に見つけておくことだ。
一年中いるムクドリには、草を刈り餌場をなくす。いる理由を消せば、いずれ来なくなる。だが渡りの鳥は、今日散らした群れが明日はもうこの空にいない。かわりに、まだ見ぬ群れが次々に北から来る。追う相手が毎朝入れ替わる季節は、空砲を撃つより、無線のマイクを握る時間のほうが長い。「タワー、バードパトロール、三四北、群れ低め、三百フィート、注意願います」。私が双眼鏡で見た一点が、これから降りるパイロットの耳に届く。
双眼鏡の中で、群れが翼を傾けて北へ抜けていく。私は撃たない。撃てば散って、低く舞って、かえって滑走路に近づく。だから見送る。ここを通るな、ここではない空を行け——双眼鏡を下ろしながら、私は群れの背中にそう言う。何万キロ渡る相手に、私が渡せるのはランウェイ三四の上の数分間だけだ。
十一月の終わり、最後の群れが抜けた翌朝、レーダーに斜めの点はもう流れない。無線に注意情報を入れる相手もいない。私は双眼鏡を下ろし、カレンダーの赤い帯の終わりに、今年も丸を一つ足す。空はただ青い。あの群れは、いまごろ私の知らない空を低く渡っている。次に赤い帯が来るのは、三月の終わりだ。