ワタナベ(65歳・元会社員)
「環境に優しい」。かつて、この言葉を聞かない日はありませんでした。家電から食品まで、あらゆる商品の広告にその文字が踊り、消費者も地球に良いことをしている気分になれる、手軽な魔法の言葉でした。
しかし、いつからでしょう。あの万能だったはずのフレーズが、次第に姿を消していきました。今では見かけなくなり、企業は「持続可能性」など、より具体的な言葉を選びます。「環境に優しい」という漠然とした表現は、いつの間にか敬遠されるようになったのです。
私が現役だった頃は、まだ「環境に優しい」と謳うことに大きな抵抗はありませんでした。多少の配慮があれば問題ないという空気でした。しかし、企業がこぞってこの言葉を使うにつれ、本当に環境負荷が低いのか、消費者の中に疑問が広がり始めたのです。
「グリーンウォッシュ」という言葉が盛んに聞かれ始めたのも、その頃です。実態が伴わないのに環境に配慮しているかのように見せかける企業姿勢に、厳しい目が向けられました。消費者の意識が高まるにつれて、曖昧な言葉は通用しなくなったのです。
決定打は、景品表示法、景表法の改正とガイドラインの強化だったと記憶しています。「優良誤認表示」への取り締まりが厳しくなり、企業は広告表現に慎重にならざるを得なくなりました。根拠のない「環境に優しい」という表示は、景表法に抵触するリスクを孕んだのです。
例えば、こんなガイドラインの記述がありました。
「商品やサービスが環境に配慮している旨をアピールする場合、その具体的な内容、裏付けとなるデータ、評価方法等を明示し、消費者が客観的に判断できる情報提供を行うことが求められる。」
これでは、「環境に優しい」だけでは許されません。何がどう優しいのか、具体的に示さなければならない。「CO2排出量〇〇%削減」のように、数値や事実で裏付けられた表現が求められるようになったのです。
当然、企業は表現を見直しました。「プラスチック使用量を20%削減」「FSC認証木材を使用」といった、より具体的な言葉遣いにシフトしていきました。これは、消費者にとって良い変化だったと言えるでしょう。形だけの「環境配慮」ではなく、実効性のある取り組みが求められるようになった証左です。
私の目には、この変化は健全な進化として映ります。言葉の力が、ただの飾りではなく、行動を促す確かな指標として機能するようになった。かつて美辞麗句だった「環境に優しい」は役割を終え、より厳密な表現へとバトンを渡したのです。私たち消費者の目は確実に肥え、企業もその進化に対応し続けている。そう考えると、少し頼もしい気持ちにもなります。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。