「4%ルールで老後の出口戦略を」(第二稿)
——"出口"が生活を圧縮するとき

タカハシセイイチ(家計アドバイザー)/『お金の慣用句 — 直観と複利のあいだ』#10(最終回)

退職五年前の男性が、ノートパソコンを開いて自作のExcelをこちらに向けた。タブに「出口戦略」と書かれている。「4%ルールで取り崩せば、95歳までもつ計算なんです」。最初の行に開始残高、次の列に年間引き出し額、最後の列に95歳の残高。数式は手入力で、関数の入れ子が深い。彼はそれを面談の冒頭から五分で説明し終えた。

出てくる4%——4%ルールは米国の30年退職モデルから来ている数字で、日本の家計に転用されるとき、為替も税制も平均寿命の分布もたいてい省かれる。それでも数字は強い。Excelの一セルに4%と入れた瞬間、その人の老後は表になり、表は埋まる。客が持ち込むシートのほとんどに、4%か、その変形が入っている。

「出口」という業界語——「出口戦略」は本来ファンドが銘柄を売り抜けるときの計画を指す。ファンドの出口は清算で完結する。生活には清算がない。生活には完了がない。にもかかわらず「出口戦略」と書いた瞬間、生活は完了を持つ何かに変換される。始点と終点を持つ、輪郭のはっきりした何かに。

確定値で埋まる未来——4%ルールの計算は、平均寿命、運用利回り、生活費を、すべて確定値として入力する。実際にはどれも未来の不確定要素だ。確定値で計算しないと、表は埋まらない。「95歳までもつ」と書かれた行に、95歳の誕生日に何をしているかは書かれていない。書かれていないのに、計算は完了している。

面談を終わらせる側の都合——書きながら気づくが、私自身も面談で「出口戦略を一緒に考えましょう」と提案する。それが面談の終わり方として清潔だからだ。当方の相談料は面談一回いくらで、シートを開いて、率を入れて、年齢欄を埋めて、保存して終わる、という型がそのまま単価になっている。「あなたの生活には出口がありません」と告げると、その日の面談は終わらない。終わらない面談は、こちらの料金体系のほうが先に持たない。

男性のExcelに戻る——彼の数式は丁寧で、関数の入れ子に整理の癖が出ていた。リタイア前の最後の数年、毎晩このシートを開いて列を増やしているのだろう。私はそれが間違っているとも、正しいとも言わなかった。彼は次の話題に移った。住宅ローンの繰上げ返済の件で、私は数値を入れ、表を二枚追加した。表は埋まり、面談は終わった。

自分のシート——窓口を出るとき、自分のメモにも同じ表があることを思い出す。客のものより取り崩し率を少し低くしてあり、年齢欄を五歳延ばしてある。書いたときは安全率のつもりだったが、いま見直すと、面談を、自分の面談を、もう少し長く終わらせないためのバッファだったかもしれない。

半年に十人ほど、出口戦略のExcelを持って来る客がいる。私は彼らの行数を増やす側にも、減らす側にも立っていない。次の客のシートが開かれるまで、机の上を片付ける。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。原案:ハヤトイト「普通の人が資産運用で99点をとる方法」#41c。