単発エッセイ。中年男性の単身赴任の、平日の夜の一時間。感傷を語らず、動作だけを並べる試み。
藤野真也、四十五歳。単身赴任で、名古屋、二年目。家族は東京。妻、長女中三、長男小六。月に一度、週末に、東京に帰る。それ以外の平日は、ここで、一人。
火曜の夜、九時。会社から、帰る。マンションの三階、2DK。鍵を、開ける。
玄関の電気を、つける。スーツの上着を、ハンガーに、かける。ネクタイを、取って、ハンガーの首の上に、引っ掛ける。
洗面所で、手を、洗う。鏡には、四十五歳の顔が、映っている。剃り残しの、無精ひげ。
台所のテーブルに、コンビニの袋。帰り道で買った、唐揚げ弁当、味噌汁のカップ、お茶のペットボトル。
弁当を、レンジに、三十秒、五百ワット。レンジの中で、ターンテーブルが、回る。
電気ケトルで、お湯を、沸かす。お湯が沸く音。
味噌汁のカップの蓋を、半分、開ける。お湯を、注ぐ。湯気が、立ち上る。
テレビを、つける。ニュース。台風が、関東に近づいている。東京は、明日の夜、強い雨。
そうか。
スマホを、出して、妻に、LINE。「ベランダの植木鉢、しまっておいて」。
「了解」と、すぐに、返事が来た。スタンプは、なし。
テレビを、消す。
弁当の蓋を、開ける。唐揚げ、卵焼き、ブロッコリー、白ご飯。
食べる。
味噌汁を、すする。インスタント、けれど、温かい。
唐揚げを、もう、ひとつ。
食べる、食べる、食べる。
食べ終わる。十五分くらい、かかった。
スマホを、開く。妻からの「了解」のあと、何もない。
長女のInstagramを、覗く。三日前の更新、友達と原宿で、撮った写真。コメントは、ついていない。
長男からのLINEは、先週、ゲームの新作の相談で、止まったまま。「お父さん、これ、買っていい?」「いいよ」。それで、終わっている。
スマホを、閉じる。
弁当のプラスチックを、ゴミ袋に、入れる。
お茶のペットボトルを、洗って、ベランダの、リサイクルの箱に。
味噌汁のカップを、潰して、捨てる。
シンクの周りを、ふきんで、拭く。
ふきんを、絞って、干す。
ベランダに、出る。名古屋の夜の空気。十一月の終わり、ちょっと、肌寒い。
東京の方角に、目を、やる。台風は、まだ、来ていない。
このマンションの、わたしのベランダには、植木鉢は、ない。しまうものは、ない。
電気を、消す。ベッドに、横になる。
明日の予定を、ぼんやり、頭の中で並べる。朝、八時、出社。十時、会議。十二時、ランチ、たぶん、コンビニのおにぎり。午後、現場視察、二件。
明日の夕飯も、たぶん、ひとりだ。
眠る。
→ 第二稿:火曜の、ひとり夕飯(v2・書き直し)
→ 研究室4人による建設的批判
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本作は単発エッセイ・第一稿。藤野真也(45歳・単身赴任で名古屋に2年目・家族は東京の妻と長女中3・長男小6)の、火曜の夜九時から寝るまでの一時間を描く。会社から帰り、コンビニ弁当を温め、台風のニュースを見て妻に「植木鉢、しまっておいて」LINE、「了解」とすぐに返事、長女のInstagramを覗く(三日前の更新、コメントなし)、長男のLINEは先週から止まったまま、片付け、ベランダで「わたしのベランダには、植木鉢は、ない。しまうものは、ない」、寝る。「明日の夕飯も、たぶん、ひとりだ」。感傷を語らず、動作だけを淡々と並べる試み。「家族が懐かしい」「ひとりが寂しい」を一切書かず、コンビニ弁当・電気ケトル・LINE・スマホ・ふきん・ベランダの動作の連続だけで、単身赴任の中年男性の夜が立ち上がる。