地震の後の、点検(第二稿)
震度四の夜、市内のかごを一台ずつ起こして回る

フカミサトル(44歳・エレベーター保守点検員20年)

午後九時すぎ、テーブルのコップが鳴った。横揺れが二十秒ほど続いて、収まった。震度四。私の住む市はそれで済んだ。だが私は揺れの最中から、別のことを数えはじめていた。私の受け持ちの保守契約は、市内で二十一棟。そのエレベーターが、いまこの揺れで、ほぼ全部止まった。揺れが収まるより先に、ポケットの携帯が震えだした。

かごは、一定以上の揺れで自分から止まる。Pが先に鳴る。かごは最寄りの階へ寄って、戸を開けて人を降ろす。続いてSが基準を超えれば、もう自分では戻らない。昇降路の底の検知器が地震を覚えたまま、かごは扉を開けて、その階で待っている。止まった機械を起こすのは、機械ではない。リセットキーを差して回す指が要る。その指は、市内に、当番の私の二本しかない。

車に乗り、回る順番を決める。閉じ込めが最初だ。かごの中に人が残っているという通報が一件でもあれば、ほかを飛ばしてそこへ行く。次が病院。三年前、別の地震の夜に、四階の透析室と一階の薬局を結ぶ一台を最初に起こしたことがある。あの夜の看護師長の「これが動かないと困るの」という声を、私はいまも順番の基準にしている。三番目が、非常階段しかない高層のマンション。閉じ込め、病院、高層。理屈ではなく、あの夜の順で回る。

最初は総合病院。夜間通用口の警備員さんが、鍵を持って待っていた。「揺れたねえ」「揺れましたね」。機械室へ走る。地震時管制のリセットは、二つ踏む。まず昇降路の底へ検知器の復帰を確かめに降りるか、今夜のこの型は制御盤で復帰がかかる型だから、盤の地震感知リレーを手で復帰させる。リレーが落ちる音がして、感知の表示が消える。次に管制運転を解除し、かごを呼んで一階ぶん上げ、戸を開け、戸を閉め、もう一度下ろす。着床の段差が出ていない。戸が二・五秒で閉じはじめる。揃った。動かしてよし。キーを抜く。ここまで、四分。

長いのは、次までの道だ。作業は四分、移動は四十分。夜の道を走るあいだ、私はこの仕事が点検というより配達に近いことを思う。一台に、四分ずつ、動く資格を配って回る。三軒目は管理人のいない雑居ビルで、夜間連絡先に電話して暗証番号を聞いて入る。エレベーターは止まっているから、上がるのは非常階段だ。七階。私は段を数える。十七段で踊り場、また十七段。七階までで百十九段。普段かごで十四秒の高さを、私の脚は四分かけて上がる。人を運ぶというのは、この百十九段を肩代わりすることだ。機械室でリレーを復帰させ、かごを起こす。

点検報告の様式に、一棟ごとに書く。日付、時刻、地震時管制の作動、感知器の復帰、試運転、異常の有無。「異常なし」の一行は、百十九段も、看護師長の声も、四分と四十分の比も、何も書かない。様式は、私が何台を起こしたかは数えるが、どの順で、どの脚で回ったかは数えない。だから私は、報告書のほかに、車のメーターと、自分の脹脛で覚えている。今夜の脹脛は、百十九段ぶん張っている。

最後の一棟を起こし終えて、キーの束をポケットに戻す。二十一本ぶん、回した。市内の私の受け持ちは、これで全部、また人を待っている。私はかごには乗らない。乗らないかごを、扉が二・五秒で閉じはじめるところまで見て、機械室の鍵を返して、次へ行っただけだ。明日の朝、四階の透析室へ最初に上がる誰かは、このかごが昨夜九時に止まり、午前二時に四分かけて起こされたことを、知らないまま乗る。それでいい。知らないまま乗れることが、起こし終えたということだ。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。