霜の、地図
冷凍設備一年目、霜を読めと言われた日

フリヤゴロウ(49歳・冷凍設備のサービスマン27年)

冷凍設備のサービスマンを二十七年やっている。凍らせる機械を直す仕事だ。スーパーの冷凍ケース、冷凍倉庫、食品工場の冷却装置。冷えない、という電話が鳴ると、工具箱と圧力計を積んで出かけていく。私たちの仕事は、食卓の安心を支える、縁の下の仕事だと思う。

一九九九年、二十二歳でこの会社に入った。最初に組まされたのは、もう定年間近の先輩だった。現場に着いて、私が冷凍ケースの扉を開けようとしたとき、先輩は私の手を止めて言った。「開ける前に、外から見ろ」。何を見るのかと訊くと、「霜だ」と短く答えた。

「冷えないには、冷えないの形がある」。先輩はそう続けた。「霜を見ろ。どこに付いて、どこに付いてないか。霜は故障の地図だ」。私はそのとき、霜なんてどれも同じ白いものだと思っていた。冷たいところに付く、それだけのものだと。先輩の言葉の意味は、その日のうちにわかることになった。

蒸発器を見ると、霜が片側にだけ厚く盛り上がって、反対側はほとんど素肌のままだった。先輩は「これは冷媒が足りん」と言った。冷媒が回りきらないから、入口の側だけが冷えて霜を吸い、奥まで届かない。霜が一面にびっしり付いて、風の出口を塞いでいるのは霜取り不良。逆に、商品を棚に詰めすぎて空気の通り道が消えると、その一画だけ霜が痩せる。霜の景色は、どれも違った。冷媒不足の霜、霜取り不良の霜、風の塞がった霜。読めるようになると、扉を開ける前に故障の見当がつくのかもしれない、と思った。

圧力計の針も、機械の体温計のようなものだと教わった。高圧側と低圧側、二本の針のバランスで、冷凍サイクルがどこで詰まっているかが見えてくる。低圧が下がりすぎていれば冷媒が足りないか、どこかで詰まっている。高圧が異様に高ければ、熱を捨てる側が働いていない。針は嘘をつかない、と先輩は言った。人の話は変わるが、針は変わらん、と。

その夜、深夜に緊急の電話が鳴った。市内のスーパーで、冷凍ケースが一列まるごと止まったという。駆けつけると、アイスも冷凍食品も、表面がもう汗をかきはじめていた。解ける前に冷やし戻さなければ、棚一本ぶんの商品が全部廃棄になる。時間との勝負だった。先輩は霜の様子をひと目見て、霜取りのヒーターの故障だと当てた。凍らせる機械の中に、温めるための部品が入っている。霜が育ちすぎて風を塞ぐから、定期的にヒーターで溶かしてやる。冷やす機械が、温める部品で守られている。その逆説が、私にはどこか可笑しかった。

修理が一段落して、店の人が私に「どうしたらまた止めずに済むか」と訊いてきた。私は冷凍ケースの吹き出し口を指して、「ここに商品を積み上げないでください」と言った。冷気は風で運ばれる。風の通り道を塞ぐと、冷気はそこまでしか届かない。「詰めすぎないで」と言うと、たいてい怪訝な顔をされる。詰めたほうが売れると思うのは当然だから。でも、通り道の話をすると、たぶん納得してくれるようだった。

あの年は、フロンの規制が切り替わっていく時代でもあった。古い冷媒から新しい冷媒へ、ガスの世代交代が静かに進んでいた。現場の人間には、政策の良し悪しはよくわからない。ただ、扱うガスの種類が変わり、工具が変わり、覚え直すことが増えた。それも仕事のうちなのだろう。

あれから二十七年。私は何千台の霜を見てきたか、もう数えていない。先輩はもういない。けれど現場で扉の前に立つと、いまでも手より先に目が霜を読みはじめる。冷えないには冷えないの形がある——あの日の言葉が、私を霜の地図の観察者にしてくれた。圧力計の針は、今日も静かに二本、震えている。

——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。