根元の、四ミリ(第二稿)
ネイリスト一年目、爪の根元の観察者になるまで

フセアカリ(26歳・ネイリスト6年)

仕事中、客の顔はほとんど見ない。台の上に置かれた手を、二時間見ている。UVライトの青が硬くて、ダストの匂いがいつも喉の奥にある。六年やって、私は客の声で誰かは分かるのに、顔は思い出せない。

月に一度来る人がいる。前回ジェルを乗せてから二十八日、その爪はずっとその人の暮らしの中にあった。爪は一日に〇・一ミリ強伸びる。だから二十八日で、根元に四ミリほどの素の爪が顔を出す。その四ミリに、四週間が書いてある。

マシンで古いカラーを削ると、根元があらわになる。あの人の左の薬指は、いつも先端の右側だけが削れている。家事の最後に蛇口を締める手だ。右利きなのに左がよく欠けるのは、利き手で重いものを持って、左で押さえるから。爪は、何も訊かなくても先にしゃべっている。

あるとき、その人が言った。「最近ゆっくりしてるんですよ」。私は「いいですね」と答えた。けれど甘皮は答えと違っていた。両手の親指の脇がささくれて、根元が白く乾いて、人差し指の側面に小さな噛み痕があった。これは、ゆっくりしている人の指ではない。私には分かる。〇・一ミリの差を毎日見ているから、分かってしまう。

分かってしまうから、黙る。「お疲れですか」とも「噛んでます?」とも言わない。プッシャーで甘皮を押し上げ、二四〇グリットで根元の形を整え、乾いたところにオイルをすり込む。それだけをする。

一年目、それができなかった。爪が読めるのに、何も言えないのが苦しかった。先輩に言ったら、こう返ってきた。「私たちは手を借りてるだけだから」。施術のあいだ、客は私に手をあずける。あずけられた手を、勝手に語ってはいけない。読むのは仕事だが、言うのは仕事ではない。

カラーチャートを差し出す。あの人は今日も、いちばん淡いベージュを選んだ。私は色を乗せ、根元にまた四週間ぶんの余白をつくって、送り出す。次回予約は二十八日後。その人はまた、新しい四ミリを連れて戻ってくる。私はもう、前の四週間を知っている。知っていて、また「いいですね」と言うのだろう。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。