オフだけの、客
色を乗せずに、素の爪を返す三十分

フセアカリ(26歳・ネイリスト6年)

予約フォームの備考に、ときどきこう書いてある。「今日はオフだけでお願いします」。ジェルを外すだけ、新しい色は乗せない。窓の外には雨が降っていて、サロンには除光液のつめたい匂いが静かに満ちている。私はカルテを開いて、淡いベージュ、と書かれた前回の色を、今日は乗せないのだと確認する。

オフだけの施術は三十分で終わる。色を乗せる工程がまるごとない。表面のトップを削り、アセトンを含ませたコットンを爪に乗せ、アルミで巻いて、時間を置く。ジェルがふやけて浮くまで、ただ待つ時間がある。ふだんの私は手を動かしているが、この十分は何もしない。客の手を持って、ふやけるのを待つだけの十分だ。

理由は人それぞれだろう。職場の規定が変わった人、手術の予定がある人、妊娠した人、ただ気分の区切りをつけたい人。けれど私は訊かない。「どうして外すんですか」とは訊かない。オフだけの予約に来る人は、たいてい理由を先に決めて来ている。決めて来た人に、私が問いを足す資格はない。

アルミを外すと、白くふやけたジェルがめくれて、その下から素の爪が出てくる。これが、何か月ぶりかの自分の爪だ。ジェルの下で、爪は薄く痩せている。何度も乗せて削ってを繰り返した爪は、つやがなく、表面がうっすら波打って、頼りないほど薄い。色という鎧を脱いだ爪は、こんなにも素っ気ない。

素の爪が出てきたときの客の反応は、二通りに分かれる。ひとつは「短い」と言う人。色と厚みがなくなると、爪は急に短く、子どもの爪みたいに見える。もうひとつは、何も言わずに「これが素か」としばらく見ている人。自分の爪なのに、初めて会うもののように、じっと見る。私はその沈黙の横で、オイルの蓋を開ける。

仕上げは、ネイルオイルだけ。痩せた爪と乾いた甘皮に、一滴ずつ落としてすり込む。色も、つやも、アートも乗せない。オイルだけ塗って帰す。「ご自宅でも、これだけは塗ってあげてください」と、小さな容器のケアオイルを勧めることもある。爪は休ませると戻る。薄くなった爪も、何もしなければ、伸びるぶんだけ素のまま厚みを取り戻す。

オフだけの料金は、いつもの三分の一ほどだ。色を乗せないぶん安い。だから次回予約も、こちらからは聞かない。「また二十八日後に」とは言わない。色を乗せた客には自然に言えるその一言が、オフだけの客には言えない。区切りをつけに来た人を、また縛り直すような気がするからだ。私はオイルの容器を渡して、ドアを開ける。

オフだけで帰った客の何割かは、数か月後にまた戻ってくる。素の爪に飽きて、あるいは予定が終わって、また色を乗せに来る。けれど、戻ってこない客もいる。その人たちの爪が、あれからどうなったのか、私は知らない。厚みを取り戻したのか、噛む癖が戻ったのか、もうネイルをやめたのか。知らないままだ。知らないでいることも、たぶん、この仕事の技術のひとつなのだろう。

色を乗せるのも仕事だが、色を外して何も乗せずに返すのも、同じだけの仕事だ。オフだけの三十分は、誰かが自分の素の爪と再会する時間であり、暮らしの区切りに立ち会う、小さな儀式なのだ。私は今日も、指先一センチ四方で、誰かが何かを脱ぐ瞬間に、そっと立ち会っているのだろう。

——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。