リンメイファ(台湾出身)
日曜の午後二時、姉のリビングは西日をまともに受け、埃の粒子が舞う。メイファはテーブルの向かい、小梅の算数ドリルを見つめる。使い込まれた鉛筆の芯が、紙をきしむような音で走る。割り算の筆算、繰り下がりの「3」が「13」に変わった理由で、小梅の手が止まっている。
メイファは答えを指差さず、小梅の白いノートに五角形の図を六つ描く。「八つを二人で分けるのと、この絵、どこが違う?」小梅の眉間の皺が、ゆっくりと伸びる。その一瞬の視線の輝きが、メイファには重要だった。隣には開かれることのない国語の教科書が、ひっそりと息を潜めている。
姉は奥の部屋で電話中だ。受話器から漏れる声は、資料の紙をめくる音と混じり合う。時折、メイファへ向けて一瞬だけ口角を上げるが、すぐに真剣な表情に戻る。メイファは無言で頷く。義兄は今週も出張。平日の食卓には、姉と小梅の二つの皿が並ぶと聞いている。
算数が終わり、音読の時間だ。「大きなカブ」を、小梅が震える声で読み上げる。「おじいさんが……う、う、うえた……」。メイファは指でリズムを取り、読みづらい漢字の脇に、ごく小さな筆致でカタカナを添える。子どもの頃、母が古い新聞紙の隅にそうしてくれたように。その時間が、メイファの胸に、かつてないほど濃い記憶を呼び起こす。台湾の、真夏の夕暮れだ。
やがてキッチンから夕飯の匂いが漂い始める。小梅は姉と台所へ消える。メイファはリビングで、飲み終えた文山包種茶の急須を片付ける。厚手の陶器でできた湯呑みは、まだ底に僅かな温もりを残す。淹れたて特有の、蘭のような甘い香りが、鼻腔の奥に吸い込まれる。祖母が、よくこの銘柄を勧めた。
「家を持て、メイファ。安心するでしょう」
あの声は、いつも唐突に、だが明確に響く。メイファは答えを探さない。見つからないと知っている。
食後、小梅は牛乳パックとモールで工作を始めた。メイファはハサミを手渡し、のりの乾きを待つ間、一緒に雑誌の切り抜きで飾りを作る。完成したのは、逆さまの牛乳パックからモールが触手のように伸びる、奇妙な多足動物だ。夜が深まり、小梅はメイファの膝に頭を乗せてきた。柔らかな髪の毛が、太ももに触れる。メイファは、ただ静かにその小さな頭を撫で続けた。
小梅の寝息は規則正しい。胸の上下動が、メイファの膝に微かな重みとして伝わる。それは、確かな重さだった。メイファの指先は、小梅の細い髪をゆっくりと辿る。外は、もう真っ暗だ。