ヒョウドウカイ(44歳・冷凍倉庫の作業員22年)
冷凍倉庫の霜は、天井と冷却器に育つ。庫内の空気に残ったわずかな湿気が、冷たい面に少しずつ凍りついていく。誰も運び込んだわけではないのに、白いものが日に日に増えていく。だから年に何度か、その霜を落とす日が来る。デフロスト、霜取りと呼ぶ。在庫の少ない日や、休日に計画される、ちょっとした大仕事だ。
霜取りの日は、計画表で決まる。在庫がいちばん少なくなる週を見て、班長が日付に丸をつける。荷を傷めないように昇温の上限も書き込まれていて、その範囲の中で庫内をゆっくり温める。普段マイナス二十五度の場所を、少しだけ緩めてやる。霜が自分から落ちてくれるように、倉庫に小さな春を一日だけ許してやるような作業だと言えるのかもしれない。
霜の量は、搬入口の開閉回数で決まる。扉が開くたびに、外の湿った空気が少しだけ入り込む。その湿気が冷却器に集まって、霜になる。だから忙しい月のあとは、霜が厚い。私たちは扉の開閉をカウントしていて、その数字を見れば、次の霜取りがいつごろ必要になるか、だいたい分かる。霜は、扉が何回開いたかという記録でもある。
冷却器のフィンを覗くと、隙間が霜で詰まっているのが分かる。フィンは細い金属の板が何枚も並んだもので、その間を冷たい風が抜けていく。霜が詰まると風の通り道がふさがれて、冷却の効きが落ちる。詰まり方には偏りがあって、搬入口に近い側ほど霜が厚い。湿気の入り口がそこだからだ。霜の付き方を見ていると、空気がどこから入ってきたのかが手に取るように分かる気がした。
霜が落ちる前には、前兆がある。昇温を始めてしばらくすると、天井の霜の縁がわずかに透き通ってくる。白かったものが、灰色がかった半透明になる。それは霜が緩み始めた合図だ。やがて、ぱさ、と小さな音を立てて、塊が落ちる。最初の一つが落ちると、あとは続けて落ちてくる。私たちは下に立たないようにして、その時を待つ。
落ちた霜は、庫内の床に積もる。それを一輪車に載せて、搬出口まで運び出す。白くて、ふわふわしていて、まるで屋内に降った雪のようだった。真夏でも、倉庫の中だけは雪が降る。その雪をかき集めて外へ運ぶとき、私はいつも少しだけ、季節を間違えたような気持ちになる。汗をかきながら、雪を運んでいるのだから。
霜取りが終わって、庫内をまたマイナス二十五度に戻すと、音が変わる。フィンの霜が取れて、風がまっすぐ抜けるようになると、冷却器の音が澄む。詰まっていたときは、風が何かにぶつかるような、こもった音がしていた。それが消えて、すっと通る音になる。整備が効いたかどうかは、温度計を見る前に、耳で分かる。
霜は、倉庫の呼吸の記録だ。先輩がそう言ったとき、私はまだ意味が分からなかった。けれど霜取りを何度も繰り返すうちに、霜の付き方の偏りが、扉の開閉と、空気の流れと、私たちの一年の忙しさを、そのまま写し取っているのだと気づいた。霜は、倉庫が一年かけて吐いた息が、白く凍ったものなのだ。
霜取り明けの庫内は、少しだけ広く感じる。天井の白いものが消えて、フィンの隙間に風が戻って、音が澄んでいる。私はその澄んだ音を聞きながら、また次の霜が育ち始めるのを待つ。倉庫はまた、ゆっくりと息を吸い始める。そうして私は、二十二年、その呼吸のそばに立ってきたのだと思う。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。