アレルギー対応トレーの、青いラップ(第二稿)
一人のための一食を、毎日つくる

イノウエミドリ(47歳・学校給食調理員25年)

一般食は回転釜で八百人分を一度に煮る。対応食は、直径十八センチの片手鍋で一人分を煮る。一人分はおたま二杯。湯はカップ一杯半で、火を強くすれば三分で焦げる。八百人と同じ火加減は使えない。鍋から目を離せるのは、八百人のときだけだ。

朝、検収室のあとに、除去食指示書を壁から外す。今日の対応食は三人。卵・乳除去が二枚、小麦と落花生除去が一枚。保護者と栄養士と担任の判が並ぶ。一枚ずつ指でなぞり、献立のどこに卵が隠れているかを赤鉛筆で囲う。グラタンのルウ。鶏そぼろのつなぎ。落花生は、見落とせばエピペンと救急車の番号がいる。だから三枚を、声に出して読み合わせる。

対応食は専用の片手鍋で煮る。木べらは柄に油性ペンで印をつけた一本だけ。まな板は青、一般食のまな板は白。調理台の右の端を、提供の二時間前にアルコールで拭き、白い列とのあいだに布巾を一枚渡す。卵が一粒でも飛ばないように、置く向きまで決めてある。手早さで進める工程は、ここにはひとつもない。

煮上がったら、青いラップをかける。透明ではなく、青。離れていても一目でそれとわかる色だ。その上に、名前と除去品目を書いたカードを置く。
三年一組 ○○○○ 卵・乳除去。
カードは毎朝、手で書く。印刷ではなく、手で。書くときは黙る。声に出すと、配膳の列まで名前が届いてしまうからだ。名前は黙って書き、品目は声に出して確かめる。それが対応食の、手と口の決まりだ。

青いラップをかけ終えると、栄養士さんと二人で指差し確認をする。指示書の品目、トレーのカード、鍋に入れた材料。三つを順に指で差し、声に出す。「卵・乳、除去。よし」。二人の声がそろわなければ、最初からやり直す。検食を取り、提供までの時間を記録簿に書く。十一時四十分、対応食ワゴン上段、青三枚。合格は、その三行がそろうことだ。

一度だけ、ヒヤリハット報告書を書いた。引き継ぎのとき、青いトレーをワゴンの上段に載せ忘れ、白い列に置きかけた。配膳員さんが手を伸ばす前に、私が気づいた。報告書には書いた。十一時三十八分。上段ではなく下段の手前。気づいた者、私。再発防止、青トレーは栄養士が最後にもう一度数える。三十秒の出来事を、十二行書いた。

その子の顔を、私は知らない。配膳室から先へは入れないから、青いトレーを受け取る手も、食べる口元も見たことがない。それでも六年間、毎日その名前を書いた。一年生のひらがなが、三年で漢字になり、六年で大人びた字面になっても、私のカードの中では同じ子だった。卒業の三月、献立表の除去欄の、その名前の行が、一行ぶん空いた。次の朝、私が外す指示書は、二枚になっていた。検収室の朝は、今日も六時半に始まる。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。