「出口戦略.xlsx」を二年ぶりに開く(第二稿)
——観察者は最初から内側にいた

タカハシセイイチ(家計アドバイザー)/『お金のことば、家に入る — 家計アドバイザーの、十の夜』#10(最終回)
生成日: 2026-05-01

二月の終わり、自宅の書斎で月曜の面談資料の下書きを直していた。手は動いていたが、頭は前作の最終回で見た客のシートに戻っていた。退職五年前の男性が「出口戦略」とタブ名を付け、4%ルールで95歳までの行を確定値で埋めていた、あのシート。その名前が頭に残ったまま、私は自分のPCのフォルダ階層をなぞっていた。

「家計」フォルダの奥——「家計」の中の「old」の中に、「個人用_作りかけ」というフォルダがある。客には見せない置き場で、開いた記憶もしばらくない。中に「出口戦略.xlsx」があった。更新日時は二年前の五月。なぜ作ったか、なぜ閉じたか、その場では思い出せなかった。ダブルクリックした。

開いた瞬間の既視感——画面に出てきたのは、前作で見た客のシートとほとんど同じ構造だった。最初の列に開始残高、次の列に年齢、右へずらりと年単位の行、最後の列に95歳の残高。取り崩し率のセルにベタ打ちで4%。関数の入れ子の癖は、客のものではなく、私のものだった。客のシートを「あれは私が書いていてもおかしくない」と思いながら見ていた感覚の出所が、ここにあった。私は二年前に書いていた。

名前の列——客のシートで人物名が入る列に、私は客の名前ではない名前を並べていた。「自分」「妻」「父」「母」「義母」「弟」「娘」「息子」。人数ぶんの行があり、それぞれに開始残高、年齢、想定イベント年、引き出し率、終了年齢のセルが揃っていた。よくできていた、という言い方が、書きながらいやだった。

セルの中身——父78歳の行に、死亡推定年として88歳。母76歳の行に、介護開始予測80歳。義母75歳の行に、独居支援費用が83歳から立ち上がる関数。妻51歳の行に、私が先に逝った場合の遺族年金受給開始想定。弟49歳の行には、二年前に渡した二百万円が「未回収扱い」のまま残っていた。これを書いた夜のことを思い出した。客に向けて売っていた道具で、自分の家族の老後を、私はあらかじめ計算していた。

降りたつもりが——前回の面談のあと、私は観察者の位置を降りるつもりだった。降りた、と書いた。降りたあとも、二年前に走らせたこの計算は、私が降りたかどうかに関係なく、ファイルの中で確定値のまま走り続けていた。降りるとは、シートを閉じることではなかった。閉じても、計算は止まらない。閉じたシートは、開けばまた同じ位置から再開する。

客の側——前作の最終回で、ノートパソコンをこちらに向けてきた男性のことを思い出す。彼は「出口戦略」のタブを五分で説明し終え、住宅ローンの繰上げ返済の話に移った。私は今夜、彼の側に座っている。説明する相手はいない。

閉じない——マウスを×ボタンに合わせて、止めた。閉じれば、二年前と同じ位置に戻る。二年戻るのは簡単だった。二年戻らない方が、難しかった。続けるか、書き換えるか、誰かと共有するか。決めずに開いたままにしておくという選択肢が、職業を始めて以来、手元になかった。シートはふだん、決めるために開く。決めずに開いておくシートのことを、私は知らない。

水の音——廊下のほうで足音がして、妻が起きてきた。台所でコップに水を注ぐ音がして、また寝室に戻っていった。私はAlt+Spaceを押して、シートを最小化した。閉じてはいない。タスクバーにアイコンが残った。最小化は、閉じることではない。

書斎の机の上には、月曜の面談資料がまだ広がっていた。明日の朝、私は他人の出口戦略の話を、いつもの口で続ける。タスクバーの隅のアイコンは、その口の後ろにある。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。生成日: 2026-05-01。前作『お金の慣用句 — 直観と複利のあいだ』『AIに、お金を聞いた』に続く第三作・最終回、私生活編。