二回目の模試で点が下がった兄
先生は『普通の振れ幅です』と言った

サカモトミユ(学生、放課後の観察者)

兄が高校三年生になる春の始まり。全国模試の成績表が自宅の郵便受けに届いた。茶封筒は思ったよりも分厚く、母はそれをテーブルの上に広げ、中身をゆっくりと取り出した。その日、兄の部屋には友人たちが集まって、小さな笑い声が聞こえていた。ゲームのコントローラーを握る兄の背中を、母は興奮した面持ちで叩いた。紙切れに印字された数字は、これまで兄が持ち帰ったどんな紙にも書かれていなかったほど、きらきらと高い位置にあった。家族の食卓は、その日ばかりは普段とは違う喜びに満ちていた。

その晩、兄の机の片隅には、透明なラップで丁寧に包まれた大福が一つ置かれていた。母が「この調子でいきましょう」と、どこか歌うような声で兄に伝えた。兄はテレビの画面から視線を外すことなく、しかしはっきりと頷いた。兄の部屋の窓からは、春のやわらかな風が、わずかに揺れるカーテンを通り抜けていた。ミユは自分の部屋から、兄の穏やかな様子を静かに見ていた。

二回目の模試の結果が届いたのは、それからひと月と少しが過ぎた、しとしとと雨の降る午後だった。今回は、母は郵便物を受け取ると、リビングのソファに座り込み、そっと中身を開いた。その顔からは、期待の色が消え、紙の束を見つめる瞳は少しだけ沈んでいた。兄の部屋からは何の音も聞こえない。友人の靴は玄関に並んでいなかった。夕食時、テレビのコメンテーターの声だけが、食卓の小さな沈黙を埋めていた。誰も、模試の「も」の字も口にしなかった。

夜も更け、母のひそやかな話し声が廊下まで漏れてきた。塾の先生との電話だろう。母の声には、迷いと、拭いきれない心配が滲んでいた。「一つ前の数字がとても良かったものですから、この度の下がり幅が、どうにも気になってしまって」。受話器の向こうから、低い男性の声が短く返ってくる。母は何度か頷き、やがて電話を終えた。そして、ちょうど水を飲みに来たミユの方に振り向くと、努めて明るい声で言った。「ご心配なく、普通の振れ幅ですって。先生がそうおっしゃるから、大丈夫よ」。

三回目の模試は、数日前の雨が嘘のように晴れ渡った日に届いた。その数字は、前回のものより、わずかながらも上向きに動いていた。続く四回目の模試の紙には、さらにいくつかの点が加わっていた。母はリビングの壁にずらりと並んだ成績表の山を、一枚一枚、指でなぞるように確認していった。最初の六十八という、あの輝かしい数字と、最後に来た六十六という数字を、しきりに見比べていた。その目元には、安堵のような、あるいは納得のような薄い笑みが浮かんでいた。

母は、重ねられた成績表の束をゆっくりと棚の奥へとしまい込んだ。「結局、元の場所に落ち着いたんだわ」。そう呟いた母の声は、まるで長い旅から帰ってきた船を岸辺で見送るような、静かな響きを持っていた。ミユには、兄の点数が、広い海原を漂流した末に、ようやく見慣れた港へと帰り着いた船のように見えた。母は冷蔵庫の扉を開け、冷たい麦茶のピッチャーを取り出した。グラスに注がれる氷の音が、からんと静かな部屋に落ちた。

ミユは、兄の最初の模試の紙に書かれていた、あの六十八という数字のことを、ぼんやりと頭の中で反芻していた。それは、たまたま運良く、良い風に乗って高い波に打ち上げられただけだったのかもしれない。そんな考えを口にする者は、もちろん誰一人としていなかった。ただ、兄の部屋の窓の外では、いつものように西日が赤く空を染め上げていた。その光は、一度も変わることなく、ただそこにあった。

——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。

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