シニア犬の、予約(第二稿)
十五歳の常連と、段取りという技術

カミデフウカ(28歳・ペットトリマー6年)

予約表のその子の名前の横には、星をひとつ書いてある。十五歳のマルチーズ。段取りが違う、という私だけの印だ。星のついた予約は、台の準備から変える。滑り止めのマットを二枚重ねにし、休ませる用のタオルを温め、スリングを手の届く位置に出しておく。来る前から、もう仕事は始まっている。

シニアの子は、時間を短く区切る。若い犬は二時間ぶっ通しでも平気だが、この子は三十分で力を使い切る。だから洗う、乾かす、刈るを別々の小さな山に割って、あいだに必ず十分の休みを挟む。その十分、何もしていないように見えて、私は胸に手を当てて心拍を数えている。落ち着くまで次の山に入らない。休ませる十分は、サボりではなく工程だ。

立たせ続けない。腰の落ちた子に四本の足で体を支えさせると、それだけで力が尽きる。だから胴の下にスリングを通す。腹帯のような布の輪で、体重を私の腕へ逃がす道具だ。当てる位置は、後ろ足の付け根のすぐ前。指一本ぶん前にずらすと膀胱を押すので、そこは触らない。スリングに乗った子は、立っているのに立つことをしなくていい。残った力は、最後まで取っておける。

ドライヤーは、胸から手のひら二つぶん離す。心臓には雑音がある。温風を当てるというより、湿りを連れ去るくらいの速さで動かし、胸の前では止めない。乾きが甘い分は、温めたタオルで押さえて吸わせる。風で乾かす量を減らして、布で乾かす量を増やす。それも、心臓のためにやることを減らす段取りのひとつだ。

毛が変わった。受付の若い頃の写真の毛は、絹で、光を弾いていた。いまは根元から綿で、すぐ毛玉になる。脂が減って、まとまらない毛だ。だから刃を変える。引っかけて切るのではなく、毛をすくって、刃を寝かせて通す。絹を切る手つきで綿を切ると、皮膚を引く。同じ犬の、同じ毛のはずなのに、別の生き物の毛を切っているような手応えがする。

半年前、飼い主さんが受付で言った。「もう、トリミングは無理かもしれませんね」。私は、フルコースはやめましょう、と言った。全身は整えない。目のまわりと、足裏と、おしり。その三か所だけ刈って、十五分で台を降ろす。残りの毛には触らない。長くても短くてもいい、清潔でいられればいい。台を降ろすとき、いつもなら最後にひと撫でする背中を、その日は撫でずに終えた。触らないことを選ぶのも、仕事のうちだった。

星のついた予約の日は、一枚の紙にサインをもらう。「高齢・基礎疾患のある動物は、施術中に体調が急変する場合があります」。その一行を、私は飼い主さんの前で声に出して読む。隠さない。読んでから、「途中で少しでも様子が変わったら、すぐ止めて連絡します」と付け足す。サインは、私が止める権利をもらうための紙だ。だから事務的に渡す。重々しくすると、飼い主さんが先に泣いてしまう。

去年の暮れ、十六歳の柴が来なくなった。最後にサロンで会った日、その子の毛はもう刈るほど伸びておらず、私は爪だけ切って帰した。次の予約のとき、飼い主さんから電話で、これからは訪問の人に来てもらう、と告げられた。移動が、この子にはこたえるから、と。いまもサロンの予約表に、その子の名前を書く欄だけ、消さずに残してある。卒業していく子は、こうして一頭ずつ表から減っていく。

十五歳のマルチーズの、今日の予約。最後になるかどうかは、私には分からない。分からないから、何も変えない。いつもの順番で、いつもの声で、いつもの距離で。台の上で、綿になった毛のあいだから、力が抜けていく。その重みを、スリングごしに腕で受ける。三十分後、目と足裏とおしりだけ刈り終えた小さな体が、さっぱりした顔で台を降りる。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。