チェックアウトの、ない部屋(第二稿)
娘が出ていった翌朝、夜勤明けに

マキノトモエ(49歳・ホテル客室清掃員22年)

夜勤は十五室。十一時のチェックアウトがないかわりに、朝までに十五の部屋を、ゆうべの形から戻しておく。終わると外が明るい。始発で帰り、洗面所で手を洗って、寝る。二十二年、その順番でやってきた。

娘の引っ越しは、昨日の昼に終わった。この春、高校を出て、進学先の街で一人暮らしを始める。夫と二人でアパートまで段ボールを運び、帰りの駅で別れて、私はそのまま夜勤に入った。十五室。いつもと同じ数だった。始発も、いつもの時間に来た。春休みの車両に、高校生はいなかった。家に着いて、洗面所より先に、二階の娘の部屋の前に立っていた。ドアは、昨日段ボールを出したときの角度のまま、開いていた。

敷居の手前で、目が先に動いた。チェックアウトの部屋に入るときの目だ。壁に、ポスターのあった場所だけ、四角く白い。三年分の日焼けの差。机の脚の跡が、床に四つ。ベッドの上に、梱包テープの切れ端が一本。ゴミ箱に、シャープペンの替え芯の空きケースと、プリクラが一枚。誰と写っているかは、見なかった。見ると、覚える。私は敷居の外で、忘れ物の点検をしていた。

うちのホテルは、お客様の忘れ物を三ヶ月保管する。タグに部屋番号と品名と拾った時刻を書いて、フロント裏の棚に置く。三ヶ月で連絡がなければ、処分に回す。その棚が、敷居のところで頭に浮かんだ。この部屋の忘れ物には、書ける欄がない。部屋番号はうちの二階で、品名は数えきれない。拾った時刻の欄には、十八年の、どこを書けばいいのか。タグは、巻けない。私は部屋に入った。

気づいたら、シーツの角を持ち上げていた。マットレスの下へ折り込む。ホテルの折り方。反対の角も折った。手は速かった。枕に手が伸びて、そこで止まった。枕の位置は、次のお客様の頭で決まる。この部屋に、次のチェックインはない。チェックアウトだけがあって、予約の入らない部屋を、私は初めて整えていた。手順の続きが、手順の中に、なかった。

二十二年、消すのが仕事だった。きれいに消すほど、いい仕事だった。この部屋では、腕が逆を向いた。壁のシールの跡は、爪を立てれば剥がせる。剥がさなかった。柱に、鉛筆の横線が、下から順に並んでいる。いちばん下は私の膝の高さ、いちばん上は、私の目より上にあった。線の横の数字は、途中から娘の字に替わっている。最初の何本かは、私の字だ。雑巾は、柱の手前で止めた。

階段の音がして、夫が部屋を覗いた。敷居のところに立って、しばらく黙って部屋を見てから、「ここ、物置にする?」と言った。夫は、箱で考える人だ。保留ボックス、と私は思った。口には出さなかった。「まだいい」と言うと、「だな」と言って、降りていった。降りる前に夫が部屋を見ていた長さは、私が敷居の外で点検していたのと、同じくらいだった。

ベッドは、ホテルの仕上がりになっていた。角が立って、しわがなくて、よそよそしい。私は枕を、窓側に一センチずらした。娘が頭を置いていた側だ。インスペクションなら、直される側に置いた。部屋を出て、ドアは昨日の角度のまま、半分開けておいた。それから、洗面所で手を洗った。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。