ミハマレイジ(54歳・航路標識の保守員31年)
灯浮標は浮いているように見えるが、海底のシンカーに鎖でつながれている。その鎖を係留チェーンという。私は光を点検する人間だが、その光が流されないかどうかは、見えない水中の鎖が決めている。海の男たちの仕事は、たいてい見えないところで支えられているものだ。
チェーンは数年ごとに陸揚げして交換する。だがその合間にも、減っていないかを確かめなければならない。陸に揚げられない年の中間点検というやつだ。揚げないなら、水の中で見るしかない。私には潜れない。だから潜れる人を手配する。
港湾工事の潜水会社に頼んだ。来てくれたのはハマオカツバキさん、潜水士を二十三年やっている人だった。作業前の打ち合わせで、ハマオカさんは私の持っていったチェーンの図面を、長いこと黙って見ていた。「リンクの、どのへんが減りますか」。私は擦れる位置を指でなぞって説明した。たぶん、それで通じたのだと思う。
潜るのはハマオカさんで、私は船の上に残った。インカムから声がする。「いま、シンカーに着きました」。水中カメラの映像がモニタに来るが、濁っていてよく見えない。砂が舞って、鎖の輪郭がぼんやりするだけだ。ハマオカさんは手探りでノギスを当て、リンクの太さを読み上げてくる。見えない中で、指だけで測っているのだった。
水面には泡しか見えない。ハマオカさんの吐いた息が、まとまって上がってくる。その泡の位置で、いまどのあたりにいるかが分かる。海の中の数分が、私には泡の列としてしか見えない。船の上で待つというのは、こういう時間なのだと知った。ただ泡を見ていた。
上がってきたハマオカさんと、撮った写真を並べて読み合わせた。リンクとリンクが擦れる内側が、目に見えて細くなっている箇所があった。「ここ、思ったより減ってますね」。次の陸揚げまでもつかどうか。私たちは数字を見比べて、交換時期を一年前倒しにすることにした。見えない鎖の、見えない減りを、二人で決めた。
片付けながら、ハマオカさんと立ち話をした。私の仕事は光で見せる仕事だ。船から見えるように、決まった周期で光らせる。ハマオカさんの仕事は濁りで見えない世界に潜って、手で確かめる仕事だ。同じ港の、上と下。見せる光と、見えない手。妙なものだと思った。
次の陸揚げまで、あのチェーンは水の中で港の灯りを支え続ける。何年か分の海中を、私はハマオカさんの読み上げた数字に預けた。上で光らせる私と、下で確かめるハマオカさん。結局、上と下で一つの航路を守っているのだ。今夜も灯浮標は、見えない鎖に引かれて、決められた通りに光っているだろう。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。