研究室4人の批判を受けて書き直した第二稿。12→8項目に削減、同型構文を変奏、根拠なしの諸説を削除、「中部」の項目を新設、結語のキメ画を削除。
孫が、聞いてきた。
「ねえ、おじいちゃん、名古屋って関西なの?」
小学三年。学校で関東地方・近畿地方を習ったらしい。中部地方は飛ばされたか、覚えていないか、どちらかなのだろう。
「名古屋は、関東でも関西でもない」と答えた。
「じゃあ、何?」
「中部、と書いてある」
「中部って何?」
説明できなかった。住み始めて四十年以上になるが、こうして整理したことは、なかった。項目ごとに、関東のやり方が引き継がれているのか、関西のやり方なのか、それとも独立しているのか。三つに分けてみる。
名古屋は60ヘルツ。関西と同じ。境界線は富士川と糸魚川を結ぶ線で、その西は60ヘルツ。
これは関西側。
関東は信州系の合わせ味噌、関西は白味噌。名古屋圏は赤味噌(豆味噌)。岡崎の八丁味噌は固有の保護名称をめぐる議論もあり、名古屋の赤味噌とはひとまず別建てで扱う。
味噌だけで言えば、独立している。関東でも関西でもない。
関東のうどん汁は濃口醤油、関西は薄口醤油+昆布だし。名古屋のきしめんの汁は、薄口寄りに、ムロアジの削り節が立つ場合が多い。これは関西寄り。
味噌煮込みうどんは、別物。麺は固ゆで、汁は赤味噌、土鍋で煮込む。これは独立している。
関東:角餅・すまし汁・鶏肉・小松菜。関西:丸餅・白味噌・里芋・大根。名古屋:角餅・すまし汁・餅菜(もちな、名古屋の伝統野菜)。
餅と汁は関東のやり方を引き継ぎ、具に名古屋固有の野菜が一つ入る。
正月の餅。関東は角餅、関西は丸餅。名古屋は角餅。
関東のやり方を、こちらも引き継いでいる。理由を語る説はあるが、確かめていない。
名古屋はJR東海の管轄。「東でも西でもない」が会社名に書かれている。これが、もっとも公式な「中部」の表明である。
東海道新幹線は東京〜新大阪をJR東海が運行する。名古屋は、その真ん中の主要駅にあたる。
関東は「ばか」、関西は「あほ」。名古屋は両方使う。あほ寄りだが、ばかも違和感がない。
境界に住む人は、両方の語彙を持つ。
喫茶店で朝、コーヒーを頼むとトーストとゆで卵が無料、というモーニング文化は、名古屋・愛知圏で突出して発達した。関東にも関西にも、これほどの規模では存在しない。発祥地については諸説ある。
これは、関東でも関西でもなく、独立して発達した文化である。一宮、岡崎、豊橋まで含めて、中京圏の生活インフラに近い。
八項目を見直すと、「関東のやり方を引き継ぐ」のは餅・雑煮の汁・エスカレーター(観察によっては左立ちが多い)あたり。「関西のやり方」は電気の周波数・きしめんの汁。「独立している」のは味噌・味噌煮込み・モーニング。「両方ある」が「ばか/あほ」。
関東でも関西でもないものを、行政上はまとめて「中部」と呼ぶ。「中部地方」は、名古屋圏・北陸・甲信のように相互に文化的な関係が薄い地方を、地理的に並べた箱の名前である。中部の中に、名古屋の固有性は包摂されているわけではない。
孫に、これを全部、説明はしなかった。「名古屋は、関東でも関西でもない」と、もう一度だけ言って、終わった。孫は「ふうん」と言って、ゲームに戻った。
夕飯は、味噌煮込みうどんだった。
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本作は単発エッセイ・社会観察・第二稿。第一稿への研究室4人の批判(12項目の同型構文反復、結語「整理した目録は、整理した側にだけ残る」のキメ画、八丁味噌=岡崎を名古屋に丸める混同、エスカレーター「左立ち」の断定、根拠なしの諸説——江戸文化東海道説・桜餅比率・モーニング一宮発祥説、「中部」の問いを開かないまま閉じる)を受けて、以下を改訂:(1) 12→8項目に削減(エスカレーター・桜餅・鰻・コンビニを削除)、(2) 同型構文を変奏(「これは関西側」「関東のやり方を引き継いでいる」など3パターン)、(3) 結語のキメ画削除、夕飯の動作で締める、(4) 「専属していない」のリフレイン削減、(5) 「中部、という箱」の項目を新設し、孫の問い「中部って何?」を本文中で受ける、(6) 江戸文化東海道説の段を削除、(7) 八丁味噌に保護名称への注釈、(8) エスカレーター段を独立節から削除して「中部、という箱」に括弧書きで言及、(9) 桜餅比率の推測削除、(10) モーニング発祥地を「諸説ある」に。