深夜二時の、チェックイン(第二稿)
ナイトフロント一年目、観察者になった夜

ナルミヤアコ(27歳・ホテルのナイトフロント5年)

夜のフロントの主役は、接客ではなく締めだ。ナイトオーディットといって、その日一日の会計を確定させる。深夜一時に締め処理を走らせ、レジの現金、自販機の売上、客室につけた電話料金を一つずつ突き合わせる。合わないのはたいてい現金だ。一年目の冬、二百三十円が合わなかった。私は四十分、伝票を全部めくり直して、両替で渡した硬貨の数え間違いを見つけた。フロントというより、夜の経理係に近い。

その締めの途中に、客は来る。深夜二時のチェックインは、昼間とは別の客だ。終電を逃した人、始発便に前乗りした人、長距離トラックの運転手、それから、理由を言わない人。

一年目の私がいちばん困ったのは、挨拶だった。「いらっしゃいませ」は昼の言葉に聞こえる。「お疲れさまです」は近すぎる。終電を逃したらしいスーツの人には「お疲れさまです」が合う夜があり、スーツケースを引いて始発で発つ人には「いってらっしゃいませ」のほうが近い夜がある。深夜の挨拶に、決まった正解はなかった。客の顔を見て、二秒で選ぶしかない。

三時すぎ、三十代くらいの女性が来た。予約なし、現金、荷物はトートバッグ一つ。指輪の跡だけが残った左手の薬指。私はその空白に勝手な物語を作りかけて、「本日は——」と言いかけた口を、「いらっしゃいませ」に戻した。理由は聞かない。聞かないと決めているのに、聞く前にもう答えを作ってしまう。その答えを飲み込むのが、この仕事だった。鍵を渡し、エレベーターの場所と朝食の時間を、声を落として伝えた。

明け方の巡回で、各階の非常口の表示灯を確認して回る。空調が低く唸り、製氷機がときどき氷を落とす。その音のほかには、自分の足音しかない。さっきの女性の部屋の前を通った。物音はしなかった。眠れたのかどうか、私には分からない。分からないままにしておく。

七時、日勤に引き継いで、通用口から外に出る。改札へ急ぐ人波が、私のほうへ向かって流れてくる。その全員に逆らって、私一人が駅から離れる方向へ歩く。朝の光が、低い角度で目に刺さった。眠るために帰る私と、起きて働きに行く人とが、横断歩道の白線の上ですれ違う。どちら側でもないまま、私は信号を渡った。

五年。挨拶は二秒で選べるようになった。締めで二百三十円を探すこともなくなった。ただ一つ、来た客の事情を勝手に決めてしまう癖だけは、今も二秒で発動する。違うのは、その続きを言わなくなったことだ。今夜も一時に、締め処理を走らせる。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。