最後のお迎えの、靴箱(第二稿)
保育士一年目、世界を数える子のとなりで

ニシオカハルカ(29歳・保育士7年)

連絡帳は三行。今日この子が何を食べ、どこで転び、何に笑ったか。一日を三行に詰める。一年目の私は、これが書けなかった。

2020年。行事は減り、保護者は門の外でお迎えをし、私たちは一日に四回、検温表に数字を書いた。受け持ちは三歳児。延長保育の当番は、新人の私に回った。

延長保育は、子どもが一人ずつ減る。インターホンが鳴る。名簿に時刻を書く。靴箱から靴を出す。履かせる。「さようなら」。靴箱は二十四人分、横六つ縦四つ。扉の名前シールは私の手書きで、Rくんのだけ「R」の字が大きすぎて枠からはみ出していた。

その日、最後まで残ったのはRくんだった。Rくんは靴箱の前に立っていた。靴の入っている扉は、三つ。自分のと、あと二人分。Rくんはそれを指さした。「せんせい、あと、みっつ」。靴の数で、まだ帰っていない人数を数えていた。

18時06分、インターホン。一人帰った。「あと、ふたつ」。Rくんは言い直した。寂しいとも、帰りたいとも言わない。減った数を、口で確かめている。

18時20分、また一人。「あと、ひとつ」。靴箱に残った靴は、Rくんの青い長靴だけになった。前の週に踏んだ水たまりの泥が、まだかかとに乾いている。私は声をかけようとして、やめた。Rくんは数えるのに忙しかった。

18時34分、インターホン。お母さんだった。Rくんは靴箱から目を離し、二秒で走り出した。私が長靴を出すより速かった。「あと、ひとつ」を言ったときの顔は、もうない。泣きも、はしゃぎもしない。名簿に18時34分と書いた。Rくんの靴箱の扉が、その日初めて、ぜんぶ空になった。

連絡帳のその日の三行は、いまも覚えている。「延長保育。靴箱の靴を数えていました。『あと、みっつ』。」直したい字も、足したい言葉もなかった。見たことを、見たまま書いた、最初の三行だった。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。