監査廊の、温度(第二稿)
自分より年上の構造物の、健康診断を続ける仕事

ヌマジリケイタ(44歳・ダムの管理員19年)

ダムの仕事はゲートの開け閉めだと思われがちだが、私の一日の大半は、堤体の中を歩くことだ。コンクリートの壁の内側に、監査廊と呼ぶ細い通路が走っている。私はそこを毎日、決まった順路で点検して回る。鉄の扉を一枚抜けると、外気が切れる。夏の外は三十二度あったが、廊下の温度計は十四度を指していた。年じゅう、ここはだいたい十四度だ。

点検の中心は、漏水量だ。ダムは漏れる。継ぎ目や岩盤との境から、いつも少しずつ水が滲む。集めた水は、Vの字に切った堰を越えて流れ、越えた水位の高さで量がわかる。平常時はだいたい毎分十二リットル。私は目盛りを読み、ますで一杯すくって透かして見る。澄んでいれば異常なし。濁りが差していたら、岩盤のどこかで新しい水みちが開いたということだ。澄んでいてほしい、といつも思う。

継ぎ目には変位計が付いている。堤体は季節で伸び縮みする。夏は伸び、冬は縮む。前回は0.3ミリ、今日は0.4ミリ。針一本ぶんの差を、私は手帳に書き写す。十九年ぶんの数字が、事務所の棚にバインダーで並んでいる。私が読む前にこの針を読んでいた先輩の字が、古い頁には残っている。

監査廊は長い。下のほうの階段は、いつも結露で濡れている。手すりを握ると掌が湿る。照明のスイッチは十五歩おきくらいに壁にあって、一つ点けて歩き、暗くなる手前で次を点ける。光の輪を引きずって奥へ下りていく。すれ違う人間はいない。自分の足音と、どこかで水が滴る音だけがする。

三年前、夜中に震度四が来た。揺れが収まって、私は懐中電灯を握って階段を下りた。結露で靴底が滑る。手すりを掴み直しながら、それでも一段飛ばしで下りた。継ぎ目を順に見て、変位計を確かめる。0.4のままだった。漏水の堰に屈むと、ますの水は澄んでいた。毎分十二リットル。普段と同じだった。私は手帳に「異常なし」と書いて、それから少し、その四文字を見ていた。何も起きていないと確かめるために、私は夜中に十四度の廊下を下りてきたのだった。

監査廊の入口に、竣工時の銘板がはめ込まれている。私が生まれるより前の年号が刻んである。コンクリートの寿命はおよそ百年と言われる。このダムは折り返しを過ぎたあたりにいて、私はその健康診断を毎日続けている。自分より年上の構造物より、私のほうが先に、ここを去る。

点検を終えて鉄の扉を押すと、外の空気がいちどに来る。夏なら草いきれ、冬なら乾いた冷たさ。十四度の廊下から、季節のある世界へ戻る。掌にはまだ結露の湿りが残っている。手帳には今日の数字が並んでいる。毎分十二リットル、変位0.4ミリ、澄んでいた。それだけを書いて、私は山を下りる。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。