ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)
夏の盛りを過ぎたばかりの健康診断。ソノダは、毎年おなじみの光景の中、診察台に腰掛けていた。慣れた手つきで巻かれる血圧計の腕帯が締め付け、すぐに解放される。その一連の動作の終わりに、看護師の白いエプロンの向こうから、平坦な声が発せられた。
「血圧、ちょっと低めですね」
その言葉は、いつもと同じ抑揚だった。しかしソノダの耳には、その「ちょっと」に込められた幾重もの意味が響く。具体的にどの程度の数字が「ちょっと」なのか、はっきりと示されない曖昧さが、まず一つ。そして、それが医療的な懸念を要するほどの異常なのか、それとも特に問題のない範囲なのか、という問いがもう一つ。最後に、おそらく心配はいらないだろうという、暗黙の了解が三つ目。それらすべてが、「ですね」という穏やかな語尾の中に静かに収まっていた。
看護師の顔には、特に憂慮の色は浮かんでいない。作業の一部として、この言葉を繰り返しているようにも見えた。彼女の言葉は、まるでどこか遠い国の、高層マンションのバルコニーから見下ろした風景のように、一見すると平凡だが、その下には多様な生活が息づいていることを示唆しているかのようだった。
ソノダは、この「ちょっと低めですね」が、どれほどのバリエーションをもって、一日のうちに繰り返されているのだろうかと考える。明確な指示としての「お薬を飲むほどではありませんよ」。あるいは許容としての「気にしすぎなくていいですよ」。はたまた、ささやかな助言としての「念のため水分を多めに」。看護師がそれぞれの患者の状態を見極めて言葉を変えているのか、あるいはすべての人に一律の言葉を投げかけているのか。ソノダは、その看護師の立ち居振る舞いに、ある種の専門性と、それを超えた人間的な奥行きを感じていた。
マンションの最上階から見下ろす街の灯りのように、健康という複雑なシステムの中で、自分の体が今、どの位置にあるのか。その「ちょっと低め」は、どのエリアに属するのだろう。特別席なのか、それとも、ただの一般的な景観の一部なのか。
健康診断を終え、ソノダは最寄りの駅へと向かう。アスファルトの照り返しがまだ熱気を残していたが、風はいくぶんか秋の気配を運び始めていた。自動販売機でミネラルウォーターを買い、喉を潤す。看護師の言葉を思い出したが、それは別に意識しての行動ではなかった。ただ、体が欲したから、ペットボトルを傾けただけだ。口の中が潤い、少しだけ落ち着いた気分になる。
帰り道、街路樹の葉が、わずかに色づき始めているのが目に入った。その変化は、ゆっくりと、しかし確実に進行している。誰かに告げられることもなく、静かに移り変わる季節。ソノダの足取りは、いつものように規則正しく、彼女の体の中で起こるであろう些細な変化を、ただ淡々と受け入れているようだった。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。