解凍の、計算(第二稿)
明日の餌は、前の晩から始まっている

オオサコミナト(29歳・水族館の調餌係7年)

閉館後の調餌室で、私は最後に冷凍庫の扉を開ける。明日の朝の仕事は、もうここで半分終わっている。在庫表に鉛筆で書いた数字を見て、明日使うぶんを冷蔵の解凍棚に下ろす。低い唸りを立てる冷蔵機の前で、何を、どの段に、何時に下ろすか。包丁を握る朝より先に、この夜の手で、明日の餌の良し悪しはおおかた決まる。

魚種で戻る速さが違う。アジは四度の棚でひと晩。イカは同じ棚でも戻りが遅いから、いちばん下の冷気の弱い段に、アジより二段ぶん手前に置く。オキアミは早すぎて、夜のうちに下ろすと朝には崩れているから、これだけは翌朝に回す。解凍棚は六段、置ける量は決まっている。だから段の場所取りが、夜の仕事のいちばん細かいところだ。明日いちばんに使うアジのバットを、扉を開けてすぐ手の届く左手前に。

急いで戻すと、ドリップが出る。常温に出したことが一度ある。朝、バットの底に赤い汁が二センチ溜まっていた。あれは魚の旨味で、捨てるしかない。捨てたぶんだけ、餌は痩せる。それから私は、何時に下ろせば何時に芯まで戻るかを逆算するようになった。前夜十時に下ろしたアジは、翌朝六時に芯まで戻る。八時間。この数字に迷いはない。

失敗は二種類ある。戻しが足りないアジは、表面は柔らかいのに芯だけ凍っている。包丁を入れると中心で刃が止まる。戻しすぎたイカは、まな板に置いた時点で身が指の間で溶けていく。芯の凍りも、崩れも、餌にならない。狙うのは、その間の一点だけだ。

夏と冬で、下ろす時刻を変える。同じアジでも、夏の調餌室は気温が高いから戻りが早い。冬は遅い。だから夏は前夜十時に下ろすところを、冬は八時に下ろす。二時間の差を、私は温度計ではなく、その日の朝の指の感覚で詰めていく。

朝、仕上がりは指で決める。解凍棚からアジを一尾取り、腹を親指で押す。包丁がすっと入る固さ——指が一ミリ沈んで、すぐ返ってくる。それが正解だ。柔らかすぎれば沈んだまま返らない。固ければ指を弾く。一度、温度計が適温を示したのに、押した指が固いと言ったことがあった。私は温度計ではなく指を取って、その日のぶんを三十分、棚に戻した。

飼育員から「今日は食いが悪い」と内線が来た日。私は調餌室を出ず、冷蔵棚の前に戻る。昨日のアジのバットを引き出し、底に汁が溜まっていないか覗く。前夜に下ろした時刻を在庫表で確かめ、芯まで戻る八時間より早く出しすぎていなかったかを数える。下ろしすぎていた。翌朝、私は下ろす時刻を一時間遅らせた。食いが戻ったかどうかは、その日の閉館後、下げられてくる食べ残しの秤の数字で分かる。

今夜も最後に冷凍庫の扉を開ける。在庫表のアジが残り十二キロ、来週の月曜に十キロ届く。古いものから先に、明日のぶんを左手前の段へ。前夜十時、冬だから八時。私は棚の段に貼った養生テープに、鉛筆で時刻を書き足して、扉を閉める。明日の朝、戻りきったアジが、左手前に並んでいる。

← 第一稿
辛口レビュー
← シリーズ目次に戻る

このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。