全員カフェ巡り
——インスタのプロフィールが全部同じな件

サカモトミユ

タケウチの日記を読んだ。あいつ、文章うまいじゃん。LINEのグループ名の話、まじでわかる。「永遠の仲間たち」が1ヶ月で死ぬやつ。うちのクラスもそう。

で、ソノダさんっていう変な大人に「タケウチくんの友達も書いてみませんか」って言われて、ちょっと考えてみた。

タケウチはLINEのグループ名だった。じゃあ私は何を書くか。スマホを開いて、すぐ見つかった。

インスタのプロフィール。

スラッシュで区切られた人生

友達のインスタのプロフィール。上から5人分、並べてみる。

📸 / 旅行好き / カフェ巡り / JK2 / 気軽にフォローしてね♡

☁️ / カフェ巡り / 旅行 / 韓国好き / いいね返します🫶

🌷 / JK2 / カフェ / 旅行 / 推し→○○ / #mylife

✈️ / 旅行 / カフェ巡り / ファッション / 高2 / follow me💕

🍰 / sweets / travel / cafe / JK / フォロバ100%🤍

……全員同じじゃん?

カフェ巡り。旅行。JK。絵文字。スラッシュ。5人とも同じ部品で、同じ順番で、同じ人生を紹介してる。

しかもこの5人、学校ではぜんぜん違うのに。1人目は吹奏楽部でクラリネット吹いてる子。2人目は数学が学年2位の子。3人目は弟の面倒ばっかり見てる子。4人目は犬を3匹飼ってて毎朝散歩してる子。5人目は古着屋でバイトしてる子。

でもプロフィールでは全員「カフェ巡り」。

カフェ巡りしてない人もカフェ巡り

ここで正直に言わなきゃいけないことがある。

私のプロフィールもこう。

📷 / JK2 / カフェ巡り / 旅行好き / 音楽 / フォローお気軽に🌼

カフェ巡り、書いてる。

巡ってない。ぜんぜん巡ってない。月に1回スタバに行くくらい。しかもフラペチーノ頼んで写真撮って、30分で帰る。それは「巡り」じゃない。「点」だ。巡りって、少なくとも3軒くらい回るやつだよね? 私は点。

じゃあなんで書いたのか。

覚えてない。たぶん、みんな書いてたから。インスタを始めたとき、友達のプロフィールを見て、「あ、こういうの書くんだ」って思って、同じように書いた。テンプレートがあるわけじゃない。誰にも教わってない。なのになぜか、全員同じものが出来上がる。

なぜスラッシュなのか

考えてみると、不思議なことがいくつかある。

まず、なぜスラッシュで区切るのか

普通、日本語で何かを列挙するとき、スラッシュは使わない。作文で「私の趣味は旅行/カフェ巡り/音楽です」なんて書いたら、先生に直される。「、」を使いなさいって。

でもインスタのプロフィールでは「、」を使う人がいない。全員スラッシュ。なんでだろう。

たぶん——「、」だと文章になっちゃうから。文章になると、「私は」から始めなきゃいけない気がする。「私は旅行が好きで、カフェ巡りもしていて、音楽も聴きます」。長い。重い。自己紹介っぽい。面接みたい。

スラッシュだと、単語を並べるだけでいい。主語もいらない。動詞もいらない。自分のことを語ってるのに、自分が消えてる。

「、」で繋ぐ=文章になる=自分が主語になる=重い
「/」で繋ぐ=単語の羅列=主語がいらない=軽い

軽くしたいんだと思う。自分のことを真剣に語るのは恥ずかしい。だからスラッシュで、ラベルだけぺたぺた貼って、「こういう感じの人です」って示す。感じ。雰囲気。輪郭だけ。

なぜ英語が混ざるのか

もうひとつ。なぜ英語が混ざるのか

「follow me」「my life」「sweets」「travel」。日本語で書けるのに、英語にする。「フォローしてね」って書けるのに「follow me」。「旅行」って書けるのに「travel」。

これもたぶん、同じ理由。

日本語だとリアルになりすぎる。「旅行が好きです」は、自分の声で言ってる感じがする。「travel」は、なんかおしゃれなタグを貼ってる感じ。ステッカーみたい。スーツケースに貼る行き先のシール。自分の声じゃなくて、デザインの一部になれる。

あと、英語にすると意味がぼやける。「follow me」は「フォローしてね」より軽い。日本語だと「お願い」に聞こえるけど、英語だと「まあよかったら」くらいの温度になる。少なくとも私たちの感覚では。

英語は、距離を取るための道具。自分の言葉じゃなくて、借りてきた言葉。借りてきた言葉だから、責任が軽い。

なぜ絵文字が多いのか

そして、絵文字

📸、☁️、🌷、✈️、🍰。プロフィールの最初にだいたい絵文字がある。名前の横にもある。文末にもある。なんなら文の途中にもある。

これは簡単。絵文字は、文字じゃないから

文字は読まれる。意味を持つ。判断される。「旅行が好き」と書いたら「へえ、どこ行ったの?」と聞かれるかもしれない。答えなきゃいけない。

でも✈️は、読まれない。「飛行機の絵文字ですね、具体的にはどちらに?」とは聞かれない。意味はあるけど、問い詰められない。雰囲気だけ伝えて、追及されない。それが絵文字。

スラッシュと英語と絵文字。この3つで、インスタのプロフィールはできている。そして3つとも、同じことをやってる。

スラッシュ=主語を消す
英語=自分の声を消す
絵文字=意味を消す

全部、何かを消してる。自分を薄くしてる。

自己紹介なのに、自分を薄くする。矛盾してるよね。でもそうしないと怖いんだと思う。自分を全部出して、それを誰かに見られるのが。

タケウチに話してみた

学校でタケウチに言ってみた。「インスタのプロフィール、全員同じじゃない?」って。

タケウチの返事。

「それLINEのグループ名と同じじゃん。テンションの冷凍保存。インスタ始めたときの『こういう自分でありたい』が冷凍されてんだよ」

……あいつ、ソノダさんの受け売りじゃん。「冷凍保存」って。でも、ちょっとわかる。

「カフェ巡り」を書いた私は、「カフェ巡りをするおしゃれな自分」でありたかった。「旅行好き」を書いた私は、「旅行に行くアクティブな自分」でありたかった。事実じゃなくて、理想。プロフィールは、なりたい自分の下書き。

でもタケウチのLINEグループ名と違うところがある。LINEグループは死ぬ。誰も発言しなくなって、名前だけが残る。でもインスタのプロフィールは死なない。毎日何百人に見られ続ける。冷凍保存されたまま、ずっと店頭に並んでる。

つまり、「カフェ巡りをしない私」が、「カフェ巡りをする私」のまま、ずっと展示されてる。

書き直そうとした

ここまで考えて、思った。じゃあ書き直そう。

嘘じゃないプロフィールを書こう。カフェ巡りを消して、本当の自分を書こう。

スマホを開いた。プロフィール編集画面を開いた。「カフェ巡り」にカーソルを合わせた。

消した。

…………。

何を書けばいいかわからない。

「カフェ巡り」を消したら、ぽっかり穴が空いた。その穴に何を入れればいいのか、わからない。

本当の私の趣味って何だ。えーと。学校から帰ってダラダラする? それは趣味じゃない。YouTubeを見る? みんなそうだから書く意味ない。弁当のおかずを考える? ……地味すぎる。

「カフェ巡り」は嘘だけど、少なくともプロフィールとして機能してた。おしゃれで、軽くて、誰にも否定されない。それを消したら、残ったのは何もない私だった。

「カフェ巡り」は嘘だった。
でも嘘を消した後に書ける本当が、見つからなかった。

結局

10分くらい編集画面をにらんで、結局こう書いた。

📷 / JK2 / カフェ巡り / 旅行好き / 音楽 / フォローお気軽に🌼

元に戻した。

一文字も変わってない。

だって、しょうがなくない? 「毎日弁当のおかず考えてます」って書けないよ。「趣味:ダラダラ」って書けないよ。書いたところで誰もフォローしないし、そもそもそれは自己紹介じゃなくてただの報告だし。

タケウチは「1-3」にした。盛らなかった。シンプルにした。かっこいいと思う。でもあれはグループ名だからできたんだよ。自分の名刺みたいなプロフィールで「盛らない」のは——けっこう難しい。盛らないと何も残らない人が、盛らないでどうすればいいの。

タケウチがソノダさんのせいで「盛れなくなった」って言ってたけど、私は盛れなくなるところまでもいけなかった。気づいたのに、変えられなかった。

……でも、気づいた。

「カフェ巡り」を書いてる自分が何をやっているか、わかった。スラッシュで主語を消して、英語で声を消して、絵文字で意味を消して、それで「自己紹介」って呼んでた。それがわかった。わかった上で、元に戻した。

タケウチに言ったら、たぶん「じゃあ意味ないじゃん」って言われる。

でも「意味ないじゃん」と言われても、私はたぶんこう返す。

「意味はあるよ。
前は気づかないで書いてた。
今は気づいた上で書いてる。
同じ『カフェ巡り』だけど、たぶん違う」

……違うと思いたい。たぶん。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。サカモトミユは架空の人物です。