タケウチソウタ
前にちょっと相談した変な大人——ソノダさんっていうんだけど——に会ってから、なんか言葉が気になるようになった。
別に国語の成績が上がったとかじゃない。そういうんじゃなくて、日常で使ってる言葉の「嘘くささ」みたいなのが、急に見えるようになった。
で、昨日の夜、スマホのLINEを開いて、グループ一覧をスクロールした。
墓場だった。
俺のLINEのグループ一覧。上から順に。
「3年2組最強💪」
中学のクラスLINE。卒業式の日に誰かが作った。「最強」。最後の発言は「卒業おめでとー!」のスタンプ連打。1年前。最強じゃなかった。最弱だった。誰一人として「元気?」すら送ってない。
「永遠の仲間たち♡」
中学バスケ部のグループ。引退試合の後に作った。「永遠」。最後の発言は引退から1ヶ月後の「誰かシューズいらない?」。永遠は1ヶ月だった。
「ウェーイ!!!」
文化祭の出し物グループ。クラスでたこ焼き屋をやった。文化祭の2日間はめちゃくちゃ盛り上がった。片付けが終わった瞬間に最後のメッセージ。「おつかれー」。ウェーイは2日で終わった。
「マジ卍」
……何のグループか覚えてない。メンバー8人。誰が作ったのかもわからない。最後の発言は2年前。でもまだ退出してない。退出するのもなんか違う気がして。
並べてみて気づいた。
グループ名って、作った瞬間のテンションなんだよね。
「3年2組最強」は、卒業式の日のテンション。「永遠の仲間たち」は、引退試合の後の泣きながらのテンション。「ウェーイ」は、たこ焼きの匂いの中のテンション。
テンションが一番高い瞬間に名前をつける。で、そのテンションは名前の中に冷凍保存される。
でも中身——つまり実際の会話——は冷凍されない。どんどん冷めて、沈黙になって、最終的にグループは死ぬ。
グループ名=テンションの冷凍保存
グループの中身=解凍済み。もう食べられない
名前だけがキラキラしてて、中身は空っぽ。
……なんかどっかで聞いたことある構造だな、これ。
ソノダさんにLINEした。「LINEのグループ名って全部嘘じゃないですか」って。
ソノダさんの返信。
「それね、マンションの名前と同じ構造だよ。『プレミアムレジデンス光が丘』って名前のマンションに住んでも、プレミアムな暮らしが始まるわけじゃないでしょ。名前は『こうありたい』を冷凍保存してるの」
正直、マンションの話はよくわかんなかった。俺マンション買ったことないし。
でも「こうありたい、を冷凍保存」っていうのは、なんかわかった。
「3年2組最強」は、「最強でありたかった」。「永遠の仲間たち」は、「永遠であってほしかった」。名前は事実じゃなくて願いだったんだ。
嘘じゃなくて、願い。
……いや、でも結果的に嘘じゃん。
ここまで考えて、ハッとした。
俺、今まさに新しいクラスのグループ名を考えてた。
高校に入って、1年3組。誰かが「グループ作ろうぜ」って言い出して、「名前どうする?」ってなってる。候補:
どれも盛ってる。「最高のクラス」って、まだ1ヶ月しか経ってないのに何がわかるんだよ。「ファミリー」って、まだ名前覚えてない人いるのに。
でも俺も「イチサン☆ファミリー」に一票入れてた。
なんで?
たぶん——テンションが高いから。今。新しいクラスで、まだみんな仲良くなろうとしてて、文化祭も体育祭もまだこれからで。この「これから」のワクワクを、名前に冷凍保存したい。
1年後に誰も発言しなくなることは、頭ではわかってる。「永遠の仲間たち」が1ヶ月で死んだことを、俺は知ってる。知ってるのに、やる。
ソノダさんが言ってた。大人が広告で「上質がそびえる」って書くのは、マンションに「上質であってほしい」という願いを込めてるんだって。事実じゃなくて、願い。
俺が「イチサン☆ファミリー」に票を入れるのも、たぶん同じ。
このクラスがファミリーみたいになってほしい、っていう願い。
大人がやってることと、俺がやってること。たぶん同じ。
でも認めたくない。
16歳の俺と40歳のマンション広告が同じなんて、
まじで認めたくない。
……結局、グループ名は「1-3」にした。シンプルに。盛らなかった。
なんでかは自分でもよくわかんない。でもなんとなく、盛った名前をつけた瞬間に「1年後に後悔する」のが見えちゃったから。ソノダさんのせいだ。余計なこと教えやがって。
……でも「1-3」にしたことを、ちょっとだけ気に入ってる。