既読のまま
——送らなかったメッセージのこと

サカモトミユ

送らなかったLINEの話をする。

たぶんこれを読んでる人にも、あると思う。打ったのに送らなかったメッセージ。消した文字。送信ボタンの上で止まった指。あるよね? ないなら、この先は意味わかんないと思うから、閉じていいよ。

タケウチが面白かった

クラスのグループLINEで、タケウチが面白いことを言った。

文化祭の出し物の話をしてて、誰かが「お化け屋敷やりたい」って言って、誰かが「去年もお化け屋敷だった」って言って、タケウチが何か言った。何を言ったかは書かない。書くと誰かわかっちゃうかもしれないし、文脈がないと面白くないタイプのやつだったから。その場にいないとわかんないやつ。

でもとにかく面白かった。グループLINEが一気にスタンプだらけになった。笑ってるやつ。泣き笑いのやつ。みんな同じ反応してた。私もスタンプ送った。ネコが転がってるやつ。

それだけなら、ふつうの夜だった。

個人LINEを開いた

帰ってから——いや、帰ってたんだけど、ごはん食べて、お風呂入って、部屋に戻ってから。スマホいじってて、さっきのグループLINEをもう一回見返して、やっぱり面白いなって思って。

タケウチの個人LINEを開いた。

「あれ面白かったね」

って打った。

十文字もない。絵文字もつけてない。「あれ面白かったね」。それだけ。

送信ボタンの上に、右手の親指を置いた。

止まった。

なんで止まったのか

なんで止まったのか、自分でもわかんない。いまも。

別におかしいことじゃない。「あれ面白かったね」って。友達に送るメッセージとして、完璧にふつう。何も変じゃない。クラスの誰に送っても成立する文章。ミナミに送っても、アオキに送っても、誰にでも。

でもタケウチに送ると、なんか——違う気がした。

グループLINEで「面白い」は、感想だと思う。みんなで共有するもの。空気。その場のノリ。スタンプ送って、それで終わり。

個人LINEで「面白い」は、なんだろう。わからない。同じ言葉なのに、送る場所が変わると意味が変わる。いや、意味は変わらないのかもしれない。変わるのは意味じゃなくて、重さ? 温度? わかんない。日本語にそういう単語ある?

グループで「面白かったね」は、みんなに向けて投げるボール。

個人で「面白かったね」は、タケウチの手に直接渡すボール。

同じボールのはずなのに。手渡しにすると、急に恥ずかしくなった。

消した

文字を全部消した。バックスペースを十回。

入力欄が空になった。カーソルが点滅してた。何も書いてないトーク画面。前にやりとりしたのは、体育のプリントの写真を送ってもらったとき。「ありがとう」で終わってる。私の「ありがとう」が最後のメッセージ。

もう一回「面白かったね」って打とうかなと思った。打たなかった。

スマホの画面を消した。部屋の天井を見た。

別に、大したことじゃない。たかがLINE一通。送ったとしても「だよね笑」って返ってきて終わりだったと思う。五秒で終わる会話。なのに送れなかった。

送らなかった理由がわからないのが、いちばん気持ち悪い。

嫌われるのが怖かったわけじゃない。変に思われるのが怖かったのとも違う。たぶん。いや、ちょっとはそれもある。でもそれだけじゃない。もっと手前のところで止まった感じ。

送ったら、何かが動く気がした。何もないところに、一個だけ足跡がつく感じ。砂浜に。その足跡を見られるのが——嫌、じゃないけど——まだ早い気がした。何が早いのか知らないけど。

翌日

次の日、学校で。廊下でタケウチとすれ違った。

「昨日のグループLINE見た?」ってタケウチが言った。自分で面白いこと言ったくせに、確認してくるんだ、って思った。いや、別の話だったのかも。文化祭の割り振りとか、そのあとの話。

「見たよ」って言った。

それだけ。タケウチは「おう」って言って、教室に入っていった。

私は自分の席について、カバンからペンケースを出して、何もなかったみたいに一時間目の準備をした。何もなかったから。何もなかった。送らなかったんだから、何もなかったのと同じ。

同じ、はずなのに。

既読にもならなかった

あのメッセージは送信されなかったから、既読もつかない。当たり前だけど。

LINEの既読って、相手が読んだら「既読」ってつくやつ。みんな気にするよね。既読スルーされた、とか。既読ついたのに返信こない、とか。

私のは既読以前の問題。送信すらしてない。発射されなかったロケット。打ち上がらなかった花火。そもそもこの世に存在しなかったメッセージ。

タケウチは知らない。私が「面白かったね」って打ったことを。打って、消したことを。知りようがない。

私のスマホの中だけにある。正確に言えば、もうスマホの中にもない。消したから。私の頭の中にだけある。

送らなかったメッセージは、どこにも届かないまま、
送った人の中だけに残る。
既読にもならないまま、ずっと。

これは何の話だろう

これは何の話だろう。LINEの話? 既読の話?

違う気がする。でも何の話かは自分でもよくわからない。

前に、何もなかった帰り道のことを書いた。あのときも思った。何もなかったのに書いてるのは変だ、って。今回も同じ。送らなかったメッセージのことを、こんなに長く書いてる。存在しなかったものについて。

でも「何もなかった」と「何かがあった」の境目って、たぶん行動じゃない。送ったか送らないかじゃない。打ったか打たないか。指が止まったか止まらないか。そういう、自分にしかわからない一瞬のことで、境目は動く。

私は打った。打って、止まって、消した。だから何かはあった。外から見たら何もなくても。

それでいいのかもしれない。いまはまだ。

次に面白いことがあったら、そのときは送るかもしれない。
送らないかもしれない。
そのときの指に聞いてみないとわからない。

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このページの記事はAI(Claude)を用いて作成・編集されています。サカモトミユは架空の人物です。