タカハシセイイチ(家計アドバイザー)/『お金のことば、家に入る — 家計アドバイザーの、十の夜』#9
生成日: 2026-05-01
寒の入りの夜、寝室の電気を消した直後、布団の中で目が暗さに慣れるのを待っていた。妻が首だけこちらに向け、天井の方を見たまま、「ねえ、もし私が先に逝ったら、あなた、どうする?」と言った。声は沈んでいない。前の週に夕方のニュースで配偶者を亡くした六十代男性の特集があり、それを思い出して聞いた、という調子だった。
頭の中で表が開く——問いを聞いた瞬間、私の頭の中ではもう表が開いていた。遺族厚生年金の見込額、生命保険金の受取人変更、独居の生活費。職業の二十年で何度も埋めてきた列が、向きだけ反転して並んでいた。表は止まらなかった。
二つの返答——「考えてある」と返したら、彼女は「ああ、家計アドバイザーらしいね」と笑うか、黙るかだろう。「考えていない」と返したら、彼女は「冷たい」と感じるか、「そうだね」と返すかだろう。どちらも、彼女が今聞いていることに対しては、ずれていた。彼女は手続きを聞いていない。
聞かれていること——彼女が聞いているのは、私がいない夜の、自分のことを置いたことがあるか、ということだった。置く、という動詞しか今は浮かばない。私は二十年間、客の配偶者死亡シミュレーションに、それに当たる列を作ったことがない。
彼女の手の動き——返答を組み立てている間、彼女の手が布団の中で少し動いた。掛布団の縁を内側にたぐり寄せる動きだった。それは答えを急いでいる動きではなかった。答えがなくてもいい、と既に決めているような速さの動きだった。私はそれに気づいて、組み立てるのをやめた。
計算される側——私は二十年、計算する側にいた。客のシートに配偶者の行を書き、数字で生き残らせ、面談を終わらせる。今夜は、その配偶者の行のほうから問われている。問うているのは妻だが、問われているのは、表の中で行になっている私だ。
何もしなかった——私は布団の中で手だけ動かして、妻の手の甲に自分の手を置いた。撫でも握りもしなかった。妻も、それ以上のことを聞かなかった。「うん」とも「そうか」とも言わなかった。彼女の息が一度長くなって、それから普段の長さに戻った。家のどこかで給湯器が一度カチッと鳴った。
降りていた、と気づいた——その何分か、降りていたと、あとで気づいた。降りる前の私は、彼女が掛布団をたぐり寄せる動きを「答えがなくてもいい速さの動き」と読んでいた——そう読むこと自体が、観察の側から見る動きだった、ということが、降りたあとで分かった。降りた瞬間、その読み方は使えなくなり、ただ、彼女の手の甲が私の手の下にあった。
降りても、表は開いていた——降りたその数分の間にも、頭の中の表は開いたまま動いていた。遺族年金の見込額のセルが点滅したまま、独居の家計の合計欄が更新されたまま、私はその表を閉じる手を持っていなかった。降りるのと、表が閉じるのは、別のことだった。降りていても、職業のシートは別の場所で開きっぱなしになっている。それは今夜は閉じない。
私は手を妻の手の甲に置いたまま、目を閉じた。閉じても、頭の中の表は閉じなかった。寒の入りの夜は、家の音が一つずつ離れて鳴って、その間の静けさが長かった。妻の息は、もう普段の長さに戻っていた。