営業用語「刺さる」「巻き込む」「握る」の身体メタファー(第二稿)
動詞の身体化

キリシマミサキ(秘書)

営業の席で耳に残るのは、商品名や機能名より、途中で差し込まれる動詞だ。先週火曜の十時十二分、八階の小会議室Bで、そのことがはっきり見えた。先方は物流会社の部長と情報システム課長。こちらは営業一人、導入担当一人、私は議事メモ。モニターには見積書、右端の保守費だけ薄い黄色。部長の紙ファイルは閉じたまま、課長は配布資料を一枚もめくらない。二人とも総額ではなく、導入後の面倒がどこへ落ちるかを見ていた。

最初の十五分、営業はきれいに外していた。競合比較、削減工数、導入社数。どれを出しても部長は「持ち帰ります」としか言わない。課長は一度だけカメラの外へ顔を向け、戻ったあとは腕を組んだ。導入担当が横から補足しようとしたとき、営業は膝の上で一度だけ手を振って止めた。空気が変わったのは、値引きの話を引っ込めたあとだ。「初期費用は調整できます」ではなく、「六月の繁忙に合わせるなら、現場教育を四回から二回に切ります。その代わり初週の夜間立ち会いはうちで持ちます」と言い切った。数字ではなく、人手の穴を埋める話に切り替えた瞬間だった。

部長はそこで机の上のスマートフォンを伏せ、課長はミュートを外した。五秒ほど空いて、先方が返したのは金額の質問ではない。

「その条件、社内で握れますか」

この語が出た瞬間、確認している内容が変わる。仕様でも費用でもない。誰が部長決裁まで話を運び、誰が現場の不満を受け、誰が夜間対応の責任者になるか。その配分まで含めて、もう逃がさないという意味になる。あれは合意ではない。拘束の予告だ。

会議が終わると、営業は廊下で「価格を触ると話が散る。先に運用を握る」とだけ言った。私はタイムスタンプの十時二十七分に丸を付け、ノートPCのD列に打った「教育四回」「夜間立ち会い」「六月稼働」を残し、競合比較の行をまとめて消した。あとで議事録に整えると、文は必ずおとなしくなる。「導入条件について認識合わせを行った」「今後の進め方を確認した」。けれど、小会議室Bにあったのはそんな平板なやり取りではない。部長はボールペンの頭を親指で二度鳴らし、課長の指先は空調の冷えで赤かった。細部のそばで、話はもう社内政治に踏み込んでいた。

営業の動詞は、きれいに言い換えた途端に力を失う。「事前合意」「認識統一」と書けば意味は通るが、誰が火消しを引き受けるかという湿った重さが消えるからだ。だから荒い言葉ほど会議室で使われ、記録には残らない。夕方、営業は先方に送るメールの件名を「条件整理」にした。本文は丁寧で、主語も曖昧だった。その不在のおかげでメールは通る。だが、あの場で何が決まったかは、整った文面より廊下の一言のほうが正確だった。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。