タケウチソウタ(16歳、高校2年)
部屋に入ると、担任の先生が奥の席、母がその対面、私は母の左隣。この配置は三者面談の定型だが、椅子に腰を下ろすたび、胃の奥が冷たくなる感覚が蘇る。空調から漂う古い埃の匂いが、慣れない学校行事特有の緊張を煽った。
席に着くと、五秒ほどの沈黙が訪れる。壁の時計の秒針が、カチリと五回鳴るのを聞き取った。遠くのグラウンドから聞こえる野球部の声が窓をすり抜け、室内に響くのは冷房の送風音だけだ。この空白を誰が破るのか、三人全員の視線が、言葉なきまま空中をさまよっていた。
先生は机の上の書類を整える。模擬試験の個人成績票、県内高校の合格実績データ、そして先週提出したばかりの私の進路希望調査票だ。茶色いプラスチックファイルから薄い紙の束がぴしりと抜き出され、まとめて机の左隅に置かれる。書類の端が揃えられ、クリップがカチリと軽やかな音を立てた。その一連の動作の合間、先生の視線は一瞬、私の額のあたりをかすめ、すぐに書類へと戻った。私はその短い視線で、今日この場で話されることのすべてを理解する。もはや言い訳の余地はない。
母は私の左隣で、わずかに背筋を伸ばした。座面の古い革が小さく軋む音が耳に届く。膝の上で組まれた指先は、親指の腹を繰り返し擦り合わせていた。提出されたばかりの書類には目もくれず、ただまっすぐ正面の壁を見据えている。その視線には、私への期待でも不安でもなく、ただ事態を受け入れるような、諦めにも近い硬さがあった。時折、細い息を小さく吐き出すのが聞こえる。
私は膝の上の成績表に目を落とした。数学の赤点に、担任の先生が赤いボールペンで引いた下線を、人差し指でゆっくりと辿る。何度指でなぞっても、そこに書かれた「28」という数字は変わらない。この数秒の沈黙の中で、先生は評価を下す側、母は静かに付き添う側、そして私は、一方的に評価される側へと、それぞれの役割が明確に固定された。この構図は揺るぎない事実である。
先生が小さく喉を鳴らし、「えー、それでは」と切り出した。その声が響いた瞬間、耳鳴りのように感じていた冷房の送風音が急に遠のく。ようやく始まる。私はそう確信した。