タケウチソウタ(16歳、高校2年)
部屋に入ると、三人分の椅子が向かい合う形で配置されている。担任の先生が奥に、保護者である母が先生の向かい、そして私がその隣に座る。これがいつもの三者面談の配置であり、慣れた光景ではあるものの、その度に胸の奥がざわつくのはどういうわけだろう。
席に着いた瞬間、いつも決まって小さな沈黙が訪れる。体感では五秒くらいだろうか。しかし、その五秒が妙に長く感じられる。冷房の低い音や、遠くで聞こえる部活動の声が、妙に大きく響く。空気は冷たくもなく、かといって暖かいわけでもない。ただ、無色透明の緊張感だけが、私達三人の間に漂っている。その透明な膜を破るのは誰なのか、そのことに意識が集中する。
先生は机の上の書類を整える。成績表、模試の結果、進路希望調査票。それらが几帳面な手つきで、ぴしりとまとめられていく。紙の擦れる微かな音、クリップがカチリと鳴る音。その動き一つ一つに、何かの意図が込められているように見える。いや、ただの癖かもしれない。どちらにしても、私はその動作から先生の次の言葉を予測しようとしてしまう。時には、資料の一枚がわずかにずれているのを見て、「ああ、今日はあまり準備に時間がなかったのかもしれないな」などと、どうでもいいことを考えてしまうこともある。
母は私の横で、少しだけ姿勢を正す。私の方を一瞥するような視線を感じるが、顔を向けることはない。先生の資料に目を落としているようだが、本当に読んでいるのか、それともただ見ているだけなのかは分からない。指先が組まれ、そのわずかな動きに、私もまた何かを探してしまう。もしかしたら、私への期待と不安が入り混じったような感情が、そこにあるのかもしれない。
私はどうしているだろう。手元の資料に視線を落とすふりをして、実は先生と母の様子を観察している。成績の芳しくない科目の箇所を無意識に指でなぞってしまう。まるで、そこに書いてある数字が、私の指の力で変わるかのように。この沈黙は、これから始まる「現実」の序章だ。誰もが次の展開を、そして次に口を開く一人を待っている。
その沈黙は、担任の先生が喉を軽く鳴らす音で破られることが多い。あるいは、小さく「えー、それでは」と切り出す声。その声が聞こえた瞬間、張り詰めていた糸が少し緩むような感覚がある。机上の書類が整頓された後、先生はまっすぐこちらを見て話し始める。その最初の言葉が発せられるまでの一呼吸に、いつも私は静かに耳を澄ませている。
短いようでいて、様々な情報が交錯する時間。あの数秒間は、きっと私だけの感覚ではない。母も、先生も、それぞれの思惑を、そして少しの緊張を抱えていたはずだ。その一瞬の空白が、三者の関係性をそっと規定し、これからの会話のトーンを決定づける。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。