夫の出張荷造りに入れるもの/入れないもの(第二稿)
60代の出張カバンの中身

ワタナベの妻(匿名希望)

夫が毎月第二土曜の昼過ぎに出かける同期会。行先は決まって熱海の定宿、二十年来の顔ぶれだ。送迎バスを待つ間に、私は二階の寝室で荷造りを始める。もう65歳になる夫だが、この儀式だけは、なぜか指先に妙な力がこもってしまう。

まず、手慣れた手順で衣類を広げる。紺のストライプ柄ワイシャツを二枚、皺一つないよう、新しい畳み方でトランクに収める。飲み忘れのないよう、一週間分の常備薬を小さなポーチにまとめるのは、もはや私の長年の役目だ。ハンカチは、洗いざらしの麻の混じった白。薄い生地だが、触れるとひんやりと肌に馴染む。夏の盛りには、きっと役に立つ。

普段、夫はカードばかりで現金はめったに使わない。だから、財布には千円札を五枚、折りたたんで忍ばせる。土産には足りないが、駅弁や喫茶店の軽食には事足りる。カバンの内ポケットには、いつも個別包装のハッカ飴。彼の頑固な咳が少しでも和らぐようにと。小さなタオルハンカチは、汗っかきの彼には必須品だ。どれも、旅先の夫を気遣う私の具体的な手立てだ。

ふと、ベッド脇のサイドテーブルに、読みかけの本が目に留まる。『現代思想』。厚手の雑誌で、難解なテーマが並ぶ特集号だ。購読しているのは知っているが、あの活字の羅列を、わざわざ寛ぎの旅先まで持ち込む気なのだろうか。私の指先が、その背表紙に触れる寸前で、わずかに浮き上がる。一瞬、手を伸ばしかけたが、そのまま静かに離す。それは、夫が自分で選び、自分でカバンに詰めるべき、彼の領域なのだと、私は知っている。

荷造りを終え、ファスナーを滑らせカバンを閉じる。静かに玄関に置かれたそれの隣には、彼がきっと手に取るであろう『現代思想』。旅立ちを前にした部屋は、いつもより静かで、レースのカーテンが微かに風に揺れている。私は、ただ、見慣れたその光景を眺め、コーヒーを淹れる。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。第一稿への辛口レビューを経て書き直した第二稿です。