男女の友情は成立するか
——ソノダマリとマーク、ある夜のバーで

ソノダマリ(マンションポエム国際比較調査員)と マーク(48歳、元ALT、米国コネチカット州在住)の対談。ソノダがマークの自宅近くのバーを訪ねた金曜の夜の記録。マークは大学時代からの女友達ジェニファーの話を、ソノダは10年来の男友達ナカガワの話を、それぞれ持ち寄った。

木造の小さなバー、22時。木製のカウンターに二人並んで腰掛けている。マークはIPA、ソノダはマンハッタン。木の壁に古い野球の写真が額装されて並んでいる。窓の外、雪が降り始めた。

「best female friend」と書いた夜

ソノダ マーク、先週フェイスブックに『my best female friend』って書いたら、奥さんが怒ったって本当?

マーク ……怒ったというより、夕食の三十分、口数が減った。それはたぶん怒ってるってこと。ジェニファーは大学一年からのルームメイトの隣の隣の部屋にいて、家族ぐるみで二十年付き合いがある。妻も会ったことあるんだ、何度も。それでも、「best」って書いたのが引っかかったらしい。

ソノダ 日本だと「親友」って書いてもたぶん同じことが起きる。「友達」までは平気。「親友」になると線が動く。

マーク その線、誰が引いてる?

ソノダ その夜の機嫌の悪い側。

マーク うちの会社の同僚に、奥さんがいて、奥さんに「異性の友達はいない」と言い切る男がいる。本当に一人もいない、そんなことありえる?

ソノダ いると思う。本当に一人もいないか、奥さんに対しては「いない」と言うことにしているか、自分の中で「友達」の定義をうまく狭めて切り捨てているか、いずれかで。

マーク 最後のやつ、ちょっと巧妙だね。「友達じゃなくて、ただの同僚」って言い直す。

ソノダ 言葉の方を動かして、関係を温存する。誰も傷つかない設計。

「友達」の中身は人ごとに違っている

マーク もう一つ、日本に住んでいた頃に困った場面がある。教員の集まりで、若い男性の先生が「うちの妻には男友達はいません」と断言した。みんな笑って同意した。隣の女性の先生は何も言わなかった。後でその女性の先生に聞いたら、「私には男友達がいるんですけど、夫の前では『元同級生』とか『部活の先輩』とか別の名前で呼んでます」って。

ソノダ その「別の名前で呼ぶ」、私もやっている。ナカガワは「大学の同期」って紹介する。「男友達」とは絶対に言わない。ナカガワも私のことを「ライターの知り合い」と紹介しているらしい。お互いそうしていることを、お互い知っている。

マーク 名前を変えると関係の中身が変わる?

ソノダ 中身は変わらないけど、聞いている側の頭の中の見え方が変わる。「友達」って一語が運ぶイメージの厚みが、思っているより大きい。

マーク 二〇〇〇年代の初め、ある調査を読んだ。十六歳から二十九歳の七百人に「あなたに異性の友人は必要か」と聞いたら、六十二パーセントが「必要」と答えた。同じ質問を「あなたのパートナーに異性の友人は必要か」って裏返すと、三十三パーセントに落ちる。結婚している人だけだと、十五パーセントに落ちる。

ソノダ 同じ一人の人間が、自分の側とパートナーの側で、「友達」の意味を勝手に書き換えている。

マーク 自分の友達は本物、相手の友達は怪しい。これも世界共通だと思うよ。

男の脈の読み違い、女の脈の見逃し

マーク よく言われるやつだけど、男は女の親切を「気がある」と勘違いするって。あれ、僕自身、若い頃に何度かやった。塾講師のバイトをしていた頃、英語の発音を直してあげただけの女性生徒に、勝手に「これは脈ありだ」と思い込んだ時期がある。今思い出すと顔から火が出る。

ソノダ 逆方向もあるって最近の研究では言われていた。女の方は、男からの好意を実際より低めに見積もる傾向がある。

マーク 二〇〇〇年代の研究でしょう? 脈読みの誤差は片側だけじゃなくて、両方向にある。男は「脈ありかも」に倒れがち、女は「脈なし」に倒れがち。なぜそうなったかの説明として、進化の長い時間の中で、男にとって「脈ありを見逃して子孫を残す機会を失う」コストが、「脈なしを脈ありと勘違いして恥をかく」コストより大きかったから、らしい。煙報知器と同じで、誤報の方が見逃しよりマシ、ってチューニング。

ソノダ でも最近の研究では、その男女差はもっと小さいって。男の脳に特別な癖があるんじゃなくて、「自分が相手に惹かれている人ほど、相手も自分に惹かれているように見える」っていう、もっと普遍的な癖が、男の側にちょっと多めに出ているだけ。

マーク つまり、勘違いするのは男の脳のせいじゃなくて、自分の中の体温を相手の脈拍と読み違える、っていうもっと一般的な人間の癖だった。

ソノダ そう。自分の側に湧き上がる感情の熱を、相手の側から放射されている熱だと誤読する。男にも女にも起きる。ただ、確率的に男に少し多く出る。

マーク 塾講師のバイト時代の僕の勘違いは、相手の親切のせいじゃなくて、自分の妄想のせいだった。だいぶ年を取らないとそれは認められない。

「好きバレ」のあと、関係はどうなったか

ソノダ 一つ面白いデータがある。二〇〇〇年代後半に、異性の友人を持つ三百人ちょっとに対して、「その友達に性的な魅力を感じたことがあるか」って聞いた研究。半数以上が「ある」と答えた。さらにそのうちの半分以上が、その気持ちを何らかの形で相手に伝えていた。

マーク 告白した、ってこと?

ソノダ 告白というより、ほのめかし、酔った勢いでの一言、メッセージで「実は」と書いた、まで含めて。

マーク で、伝えた後、関係はどうなった?

ソノダ 切れたのは十六パーセントだけ。六割は、気持ちを知られた後も友人のままだった。

マーク えっ。「好きバレしたら終わり」って、皆あんなに言うのに?

ソノダ 神話なんだと思う。実際には、伝えても続く。むしろ、隠したまま続けるより、一度言葉にしてから続いた関係の方が、安定するのかもしれない。

マーク ジェニファーには、僕、二十二歳の時に一度伝えたんだよ。大学のキャンパスの裏の駐車場で。彼女は「あなたが好きだけど、恋愛としてはたぶん違う」って言った。

ソノダ それから二十六年、付き合いが続いている。

マーク 続いている。ただ、妻にあの夜のことは話していない。話したら、たぶん「best」って書くより十倍ややこしい。

ソノダ 話さないことと、話せないことのあいだに、線がある。

記憶は、いま信じている関係の方へずれていく

マーク もう一つ気になる研究がある。心理学者が、付き合っている恋人同士や夫婦、合わせて何百人かを数ヶ月追跡した。測ったのは、相手にひどいことをされた記憶。最初に書いてもらった記述と、数ヶ月後に同じ出来事を思い出してもらった時の記述を比較する。

ソノダ 関係を続けたいと思っている人ほど、相手の仕打ちを「そこまでひどくはなかった」と思い直していた、っていう話?

マーク まさにそれ。書き換わるのは、喧嘩の記憶だけじゃない。続けたい関係の出来事は、関係が壊れない位置に少しずつ戻されていく。

ソノダ 体温が三十六度五分に戻されるのと同じ仕組み。記憶のホメオスタシス。

マーク ジェニファーとの二十二歳の駐車場の夜。今、僕がそれを思い出すと、わりとあっさりした記憶になっている。「ああ、若かったね、それで終わった」みたいな。だけど当時の日記を読み返すと、もっと深く落ち込んでいた。三日くらい何も食べられなかった、って書いてある。

ソノダ 今のあなたが、ジェニファーとの友情を続けたいと思っているから、当時の落胆を「あっさり」に書き直している。

マーク 書き直しているとは思いたくないけど、たぶんそうなんだろうね。

ソノダ 書き直しを完全に止めることはできない。記録だけが、当時の自分を保存している。

それでも、答えは出ない

マーク ねえ、結局のところ、男女の友情は成立すると思う?

ソノダ 質問が間違っている、と私は思う。「成立する」かどうかを判定できる客観的な基準がない。誰もが「友情」って言葉の中身を、自分の人生経験に合わせて少しずつ違うふうに使っている。

マーク そうか。「友情」って言葉そのものが、誰が使うかで意味が変わる、揺れる言葉だから、議論しても噛み合わない。

ソノダ 昔の哲学者で、こういう言葉について書いた人がいた。「自由」とか「民主主義」とか、皆が大切だと信じている言葉ほど、その意味について全員が一致することはない、って。

マーク 「友情」もその仲間だと。

ソノダ 「友情」と「恋愛」の境目を、欲望が一ミリでもあったら「友情」じゃない、と置く人がいる。一線を超えていなければ「友情」だ、と置く人もいる。どちらが正しいかは決められない。それぞれの人生が、それぞれの定義を要求しているから。

マーク じゃあ、ジェニファーとの関係は、僕にとっては友情で、妻にとっては怪しい関係で、ジェニファー本人にとってはたぶんもう何でもない、ってことになる。

ソノダ 三人の頭の中で、三つの違う名前で同じ関係が保存されている。誰も嘘をついていない。

マーク ナカガワとの十年は、君にとっては?

ソノダ 私にとっては友情。ナカガワにとっては、たぶん、本人もよく分かっていない何か。彼の今の恋人にとっては、少しだけ警戒する対象。

男女の友情が疑われ続けるのは、必ず何かが起きるからではない。何も起きなかった関係の中にも、起きてもおかしくなかった時間が静かに保存されているからだ。

マーク ……いま、なんかいいこと言ったね。

ソノダ 言ってない。私が書きたいエッセイの結論を、先に口にしただけ。

マーク 書いたら送ってくれる?

ソノダ 送る。

カウンターの奥で、バーテンダーがグラスを拭いている。窓の外の雪が、街灯の明かりの中で、ゆっくり斜めに降っている。マークは時計を見て、「妻に帰る時間を伝える」と言ってスマホを取り出した。ソノダはマンハッタンの最後の一口を飲み終え、コートを羽織った。

店の入り口で別れ際、マークが「次は妻も連れてくる」と言った。ソノダは「うん、それがいい」と答えた。二人とも嘘はついていなかったし、二人とも、相手の言葉を字面通りには受け取っていなかった。

——編集部メモ:本対話は、男女の友情を巡る論点(言葉の本質的な揺らぎ、脈の読み違い、告白後の継続率、記憶の書き換え)を、二人の観察者キャラクターの口を借りて並べ直したもの。研究の出典は本文では明示していないが、第一生命経済研究所の調査(二〇〇六年)、リーダー(二〇〇〇年)の異性の友人研究、カプラン&キーズ(二〇〇七年)、敬二倉(二〇〇七年)、ヘイゼルトン&バス(二〇〇〇年)、シーレラ(二〇一二年)、ハラツィス&クリスタキス(二〇〇九年)、ギャリー(一九五六年)、フェスティンガー(一九五九年)、ルチーズ研究などを背景に置いている。

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このページの対話文はAIを用いて作成・編集されています。男女の友情を巡る言語哲学・進化心理学・社会調査の論点を、既存キャラクター二名の対話形式で並べ直しました。