「株式100%は危険」
——形容詞のほうが、遅れて動く

タカハシセイイチ(家計アドバイザー)/『お金の慣用句 — 直観と複利のあいだ』#5

四十代の女性が、相談票の余白に「オールカントリー」と書いて持ってきた。SNSで知人に勧められたという。最初の質問はこうだった。「これって危険じゃないんですか? 株式100%って怖くて」。窓口でこの一文を聞かない週はない。私は今日、この「危険」という形容詞だけを取り出して見ることにする。

面談記録のほう——彼女の過去の運用履歴をめくる。社会人になってからの二十年、給与の振込口座は普通預金一本。定期に振り替えた時期もあったが、ほぼ全額が円の現金で寝ていた。本人がこの状態を「危険」と呼んだことは一度もない。「とりあえず置いてあった」「面倒で動かさなかった」。窓口で本人から聞き取った言葉はそれだった。

「100%」という数字——形容詞の前に、まず数字のほうを見る。100%は、なにかの割合がそれだけに集中している、という事実を述べているだけの中立な数字だ。同じ人物が「現金100%です」と言っても、「保険100%です」「自宅不動産100%です」「親会社の自社株100%です」と言っても、危険という形容詞はほとんどつかない。日本の相続現場では、自宅不動産が遺産の100%という世帯はざらにあるが、私はその場で「危険な配分です」と切り出したことがない。

形容詞は配分ではなく逸脱を指している——同じ100%なのに、株式にだけ「危険」がつく。これは数学的なリスク量の差ではなく、業界が標準とする助言からの逸脱度を指している。教科書に載っている分散の表(株式と債券、国内と海外、現金とコモディティ)からどれだけ外れているか。表からの距離が、そのまま「危険」の体感を作っている。形容詞が測っているのは、現実ではなく相場観のほうだ。

同じ100%が許容語に変わる——閾値の話に進む。十年前、店頭で「先進国株100%にしたい」と言う客が来たら、上司は止めるよう指示しただろう。今は止めない。新NISAの解説書では、つみたて枠で全世界株一本という配分が、初級者の標準として紹介されることが珍しくない。同じ配分、同じ商品、同じ100%が、「危険」から「初心者向け」に動いた。動いたのは、数字ではなく形容詞のほうだ。

形容詞は遅れて動く——書きながら気づくのは、この移動が現実の市場より遅れて起きているということだ。世界株の長期保有が悪くないというデータは、十年前にも二十年前にもあった。にもかかわらず、業界の口は「危険」を言い続けた。形容詞が動くのは、データが揃ったからではなく、店頭でその商品を売る側の事情が揃ってからだ。販売資料の差し替え、研修の更新、上司の言い回しの解凍。これらが順に進んだあとで、ようやく「危険」が「許容」に書き換わる。

逆に動く形容詞——逆向きの例も挙げておく。十年前まで普通だった「個人向け国債変動10年100%」のような配分は、今は私自身、四十代の客に提示しづらくなった。商品自体は何も悪くなっていない。利回りも当時よりむしろ高い。それでも、提示すると客のほうが先に「それだけだとちょっと…」と言う。「危険」の対義語は「物足りない」で、こちらも同じ形容詞群の遅れた移動の中にある。

自分が日々この形容詞を使っている——四十代の彼女に、私は結局こう答えた。「全世界株100%は、いま業界では危険配分とは見なされていません」。間違ったことは言っていない。だが、五年後の自分はこの一文をそのままでは使えないだろうし、五年前の自分なら口にしなかった。同じ私が、同じ商品に対して、別の形容詞を貼り直しながら窓口に座っている。閾値の移動に、私は気づきにくい。気づきにくい位置に、私が立っているからだ。

客に戻る——彼女が二十年抱えてきた現金100%について、私は今日まで「危険ですね」と言わなかった。これからも、SNS発の助言が変わらない限り、たぶん言わない。「危険」を貼るかどうかを決めているのは、彼女の家計でも、為替でも、インフレ率でもない。私がどの研修を最後に受けたか、店頭にどのチラシが置かれているか、業界の上の方で誰が何を喋ったか。その三点くらいだ。

窓口に戻る。彼女には、配分の話を一通りしたあと、最後に短く付け加えた。「危険という言葉は、配分の中身というより、いま業界が標準としている形からどれくらい離れているか、を指しています」。彼女はメモを取らなかった。少し黙ってから、「じゃあ、危険じゃない時期に始めてもいいんですね」と言って帰った。形容詞のほうが先に動いて、それを追いかけるかたちで、彼女の二十年が続行されることになる。

——補記:この第一稿は公開後に辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。3稿を並置しています。

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このページの記事はAI(ChatGPT)を用いて作成・編集されています。原案:ハヤトイト「普通の人が資産運用で99点をとる方法」#41c。