スドウリュウセイ(42歳・花火職人20年)
夏の数秒のために、人は冬を働く。大会が終わって筒を仕舞うと、製造場の季節が始まる。夏のあいだ空にあった私の仕事は、冬のあいだ手のひらの上にある。誰も見ていない場所で、来年の光の粒を、私はひとつずつ育てているのだと思う。
星掛けは、待つ仕事だ。火薬の核を回転桶に入れ、火薬を溶いた液を掛けては乾かし、また掛ける。一日で一回り、二回り。径はまだ豆粒ほどにしかならない。何週間もかけて、星は少しずつ育っていく。乾いたかどうかは、目では決めない。手のひらに転がして、重さと、表面のかわく音で決める。湿った星は、ころがる音がにぶい。
製造は、冬が向く。夏のように湿度が高いと、掛けた液がいつまでも乾かず、星の表面が荒れる。空気が乾いた冬は、乾燥の速さがそろう。乾燥棚の列に、径ごとに分けた星を並べていく。けれど冬には冬の敵がいる。凍ることだ。掛けた液が乾く前に凍れば、星は内側から割れる。だから水の温度には、いつも気を配っているのかもしれない。
新作の設計図を、机に広げる。来年の競技大会への、挑戦玉だ。審査には基準がある。真円に開くか、星の色が変わるとき濁らないか、消え際がそろっているか。基準を満たすだけなら、教わった通りに込めればいい。けれど競技で残るのは、基準の内側で、誰も込めたことのない層を見つけた玉だ。基準と独創のあいだの、細い線の上を、鉛筆でなぞっていく。
火薬の場には決まりがある。年の暮れ、私は火薬庫の台帳を開く。種類ごと、等級ごとに、在庫の量を数えて書き込む。法で許された量を、一グラムでも超えてはならない。一度に多くを置かず、小屋を分けて保管する。台帳の数字と、棚の実物が合わなければ、作業は始められない。冷たい庫の中で、私は鉛筆の先を舐めながら、数字を一行ずつ照らし合わせる。
冬の製造場は、静かだ。夏の打ち上げ場の、地を揺らす音とドラム缶のような余韻と歓声——あの喧噪とは正反対の季節。聞こえるのは、回転桶の規則正しい音と、星を棚に置く乾いた音と、自分の息だけ。コツコツと、手仕事の音が続く。夏のために、冬はこんなにも静かなのだ。
雪の降る日があった。作業場の窓が白く曇り、その向こうで雪が落ちていく。私は乾燥棚の前で、掛けたばかりの星を転がしていた。窓の外の雪を見ながら、来年の夏を考えていた。この星が、半年後の夜空で割れる。今はまだ豆粒で、白く、湿っているこの粒が。雪の冷たさと、夏の熱とが、窓の一枚を挟んで隣り合っているように思えた。
掛けては乾かし、また掛ける。星掛けの日々は、ほとんど同じことの繰り返しだ。けれど一日ごとに、径は確かに増えている。手のひらの上で、重さが少しずつ変わっていく。私はその変化を、指で測りながら、来年の競技玉のことを思う。設計図の細い線を、この星が空でなぞってくれるかどうか。それは、まだ誰にも分からない。
冬の手仕事が、夏の数秒を作るのだ。消えるもののために一年働く私たちにとって、いちばん長い季節は、いちばん静かな冬なのだ。雪の窓の向こうに、私は来年の夏の空を見ている。手のひらの上の小さな粒が、いつか、誰かの見上げる夜空になることを信じて、今日も私は星を掛ける。
——補記:この第一稿は辛口レビューを受け、第二稿で書き直しました。第一稿・レビュー・第二稿を並置して、改稿の過程を記録しています。